[スポンサーリンク]
2016年に刊行された東野圭吾「危険なビーナス」。
2020年10月に主演・妻夫木聡でドラマ化ということで読了。本格ミステリから社会派に舵を切った同作家ですが、本作も脳科学というフィールドに触れ、社会派の領域で描かれています。
以下は本作を考察するうえで読了前提のネタバレを含む表現になっています。
[スポンサーリンク]
映像化向き社会派ミステリ「危険なビーナス」
獣医・手島伯朗の視点で本作は描かれています。いわゆる三人称一元視点です。
本作も安定のストーリーテリング。東野作品らしく読みやすいのですが、伯朗が美女好きという設定であるためか、いつになく軽めの描写が頻出します。
突如として現れる弟・八神明人の妻を名乗る楓は謎めいた美女として描かれていますが、楓視点でみると伯朗を助手役としても使いこなしています。
色眼鏡で見ると、原作がすでにドラマ化しやすい作風で描かれているようにも。
[スポンサーリンク]
サヴァン症候群が生み出す偉才
前述した脳科学というのが、サヴァン症候群に関連する事象です。フラクタル図形などは常人が描ける作品ではなく、眺めていると目まいがするほど。
この偉才に着眼したのが八神家の当主・八神康治。本作は、この人物の構想に端を発して展開されています。
脳に電気刺激を与えることによって、人為的に後天性サヴァン症候群を発症させるという医療行為は、いわばパンドラの箱。禁断の領域に足を踏み入れるというのは、東野作品ではよくとられる手法です。
[スポンサーリンク]
パンドラの箱が隠された小泉の家
母・禎子の死後、取り壊されたという小泉の家は、ラストへの伏線となっています。読み手は、話の流れから小泉の家は“無きもの”として消去しているので、実は実在していたというのは想定外のはずです。
弟・明人は行方不明のままストーリーが展開され、妻を名乗る楓も、妻であることの確かな証拠がないまま事が推移していきます。このあたりの精巧なプロットも、東野作品は外れが少ないといわれる所以。
禎子の死は、意外な人物の欲にかられた行為によって引き起こされた悲劇ですが、本作はその犯人捜しという作品でもありません。
全体的な総括はさておき、描きたいのは人物であり、その過去や背景なのか、と感じたのが本作を読了した率直なところです。
written by 空リュウ
[スポンサーリンク]