ミステリ

【小説】“脳裏に刻まれる”おすすめ「名作ミステリ」25選

おすすめ名作ミステリ小説

「ミステリを読んでみたいけど、何かおすすめある?」と問われたときに推奨できる作品群を、私見でピックアップしてみました。

名作といわれるミステリ小説は数多く存在しますが、個々の嗜好によって、必ずしもどれもが受け入れられるものではありません。中には数ページ読んだだけで、自分にはちょっとしんどいなと感じる作品もあるはずです。

個人的な嗜好として、ミステリ作品には一定の緊張感とある種の不可思議さを求めるため、恋愛要素が強いもの、冗長的な描写が続くもの、魅惑的要素に欠けるものなどは対象作品から除外しています。

読み手を作中の舞台設定にぐいぐい惹き込み、脳を刺激してくれる作品群を私見で拾ってみました。

“脳裏に刻まれる”おすすめ「名作ミステリ」20選+5選

以下、国内作品・海外作品問わずランダムでピックアップしています。

ランキングではないので、興味がわいた作品をまずは読んでみることをおすすめします。自分に合う作家が見つかれば幸運ですし、さらに見聞を広めるためにもいろんな作風にふれたほうが良いと思います。

1.「そして誰もいなくなった」アガサ・クリスティ

おすすめ名作ミステリ小説-そして誰もいなくなった

1939年刊行。

アガサ・クリスティの代名詞ともいえる名作「そして誰もいなくなった」。

クリスティ作品のランキングでも常に上位に選出される人気作です。

孤島に集まった10人の登場人物にふりかかる、マザーグース「10人のインディアン」になぞらえた連続殺人。

“クローズドサークル”と“見立て殺人”の傑作であり、後世の作家がオマージュ作品を多数刊行しています。

いつかは読まなければならない不朽の名作です。

そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫-クリスティー文庫) アガサ・クリスティー
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2.「十角館の殺人」綾辻行人

おすすめ叙述トリック-ミステリ小説

1987年刊行。著者デビュー作。

「そして誰もいなくなった」のオマージュ作品として知られる名作。

本作は新本格ミステリの先駆けとなり、衝撃の叙述トリック作品としてあまりに有名な一冊です。

クローズドサークルの中で起こる見立て殺人は「そして誰もいなくなった」を想起させますが、本作には“島”の章と“本土”の章が加味されており、オリジナルの作品として読み込めます。

突如として訪れる、頭をガツンと殴られるような衝撃の一行が読み手の脳裏に刻まれます。

十角館の殺人 <新装改訂版> (講談社文庫) 綾辻 行人
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3.「白夜行」東野圭吾

おすすめ名作ミステリ小説-白夜行

1999年刊行。

ヒット作の多い作家ですが、本作は長編ミステリの中でも人気の作品です。伏線が至るところに張られ、つめ跡を残して回収していきます。

近年の著者の作品は社会派作品が多いですが、本作はどちらかというとサスペンス要素の強い“刺さる”名作。

亮司と雪穂の相関、二人の周辺で起きる事件事故が悲哀に満ちていて、読み手を作中の舞台にぐいぐい惹き込んでいきます。

2006年にドラマ化(主演・山田孝之)、2011年に映画化(主演・堀北真希、高良健吾)もされています。

白夜行 (集英社文庫) 東野 圭吾
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4.「幻夜」東野圭吾

おすすめ名作ミステリ小説-幻夜

2004年刊行。

「白夜行」の後継ともいえる長編ミステリ。

(作中の)阪神・淡路大震災を機に動き出した、美冬と雅也の運命は光と影そのもの。

「白夜行」同様サスペンス要素が強く、二人を取り巻く陰鬱とした事件事故が読み手の心象に深く刻まれる一冊です。

2010年にWOWOW連続ドラマWでドラマ化(主演・深田恭子)もされています。

幻夜 (集英社文庫) 東野 圭吾
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5.「告白」湊かなえ

おすすめ名作ミステリ小説-告白

2008年刊行。

2009年本屋大賞受賞。

イヤミス作品としても名高い著者デビュー作。

本作は、5人の登場人物による“独白”によって構成されています。各々が独善的に語る主観描写は、著者ならではの鋭利なアングル。えぐるように心の深淵に迫ってきます。

読後感は著者のセールスポイントでもある“あと味の悪さ”。イヤミス作品の名作といえる一冊です。

告白 (双葉文庫) 湊 かなえ
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6.「江戸川乱歩傑作選」江戸川乱歩

おすすめ名作ミステリ小説-江戸川乱歩傑作選

探偵小説の祖ともいうべき江戸川乱歩。

本作は文字通り乱歩作品の傑作選です。

乱歩といえば明智小五郎ですが、怪奇的でグロテスクな作風も多く、強烈なフェティシズムも色濃く残ります。

個人的には、「屋根裏の散歩者」「人間椅子」が印象的。本作には収録されていませんが、長編「孤島の鬼」などは怪奇的で不気味な世界観が味わえます。

いずれの名作も一読の価値があります。

江戸川乱歩傑作選 (新潮文庫) 江戸川 乱歩
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7.「八つ墓村」横溝正史

おすすめ名作ミステリ小説-八つ墓村

江戸川乱歩と並び称せられる横溝正史。本作は横溝正史の代表作の一冊としてあげられる名作です。

何度も映像化されているため、ドラマ版のほうで知られているかもしれません。

横溝作品でもっとも有名なのは名探偵・金田一耕助ですが、本作は金田一耕助シリーズの長編作品です。ただ、展開上、中盤あたりからの登場となり、「獄門島」「犬神家の一族」のように活躍するシーンはあまりみられません。

とはいえ、ドラマとはまた違った印象を受ける必読の一冊です。

八つ墓村 (角川文庫) 横溝 正史
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8.「マリオネットの罠」赤川次郎

おすすめ名作ミステリ小説-マリオネットの罠

1977年刊行。

三毛猫ホームズシリーズで有名な著者ですが、本作は著者人気ランキングでも上位にランクする名作。

コミカルなテイストではなく、シリアスなタッチでサイコキラーの連続殺人を描写しています。

ミステリアスな峯岸家の面々、幽閉された少女など、プロットに定評のある著者ならではの意外な展開が待ち受けています。

赤川作品の中でも推奨できる一冊です。

装版 マリオネットの罠 (文春文庫) 赤川 次郎
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9.「アクロイド殺し」アガサ・クリスティ

おすすめ叙述トリックミステリ小説

1926年に発表された不朽の名作。

クリスティ作品の名探偵・“ポアロ”シリーズの3作目。

結果的に“叙述トリック”を世に問うことになった、ある意味革新的な一冊です。

本作は後世に多大な影響を及ぼした名著であり、奇想天外な着想ゆえに、称賛と同時に批判も受けることになった名作。

のちに“フェア・アンフェア論争”を引き起こすまでに至り、アンフェア側の急先鋒S・S・ヴァン・ダインが発表した「ヴァン・ダインの二十則」はあまりにも有名です。

叙述トリック作品にふれるにあたり、必読の一冊といえます。

アクロイド殺し (ハヤカワ文庫-クリスティー文庫) アガサ・クリスティー
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10.「異人たちの館」折原一

おすすめ叙述トリック-ミステリ小説

1993年刊行。

2018年本屋大賞発掘部門の「超発掘本!」に選出。

あとがきで著者自身が語っていますが、本作は著者渾身の力作。サスペンス要素の強い作品ですが、叙述トリック作品としても有名です。

作中作、独白、年譜、関係者インタビューなどテキストを頻出させ、多重文体で読み手を揺さぶり続けます。

過去実際に起きた事件のアレンジ、“異人”の存在、何者かによるモノローグ(独白)、前のめりになる要素がふんだんに盛り込まれた一冊です。

異人たちの館 (文春文庫) 折原 一
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11.「慟哭」貫井徳郎

おすすめ叙述トリックミステリ小説

1993年刊行。著者デビュー作。

重厚な描写が多いことで知られる貫井作品ですが、本作は著者代表作ともいえる深みのある一冊。

連続少女誘拐事件を背景に、“彼”の視点で進行する描写が奇異に映り、作中の舞台設定に惹き込まれます。

被疑者検挙に尽力する捜査本部の俯瞰と、新興宗教に心の救いを求める“彼”視点の描写はどこで交わるのか。

叙述トリック作品としても知られていますが、著者が届けたいメッセージの余韻が残る秀作です。

慟哭 (創元推理文庫) 貫井 徳郎
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12.「噂」荻原浩

おすすめ名作ミステリ小説-噂

2001年刊行。

ユーモアのある描写などエンターテインメント性で定評のある著者ですが、本作はシリアルキラーが登場するサイコサスペンス。

ベテラン刑事・小暮の冷静かつユーモラスな視点には人情味が感じられ、著者特有の人物描写が映えます。

ラストの衝撃は意外なアングルから練られたプロット。作中に張られた伏線に気づくのは、ラストにたどり着いたときでしょう。

本作は荻原作品の読了有無を問わず推奨できる一冊です。

噂 (新潮文庫) 荻原 浩
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13.「犬神家の一族」横溝正史

おすすめ名作ミステリ小説-犬神家の一族

1972年刊行。

ドラマ化、映画化など多数の映像化作品が存在しています。

横溝正史の代表作にあげられることも多く、おそらく金田一耕助シリーズとしてもっとも有名な作品です。

犬神家の一族といえば、佐清の“白いゴムマスク”と“湖面から突き出た2本の足”を思い浮かべるのも、映像化作品が広く知られている所以でしょう。

犬神佐兵衛の遺書に端を発する一連の殺人事件はまさに一大サスペンス。

日本一有名といっても過言ではない古典トリックは一読の価値があります。

犬神家の一族 (角川文庫) 横溝 正史
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14.「オリエント急行の殺人」アガサ・クリスティ

おすすめ名作ミステリ小説-オリエント急行の殺人

1934年に発表された名作。

“ポアロ”シリーズの8作目。

映像化作品としては「オリエント急行殺人事件」のタイトルで知られています。

本作はクリスティ作品の中でも人気のある名作で、予想だにしない結末にクリスティ作品の真骨頂をみることができます。

クリスティの代表作にもあげられる一冊を避けて通ることはできません。

オリエント急行の殺人 (ハヤカワ文庫-クリスティー文庫) アガサ・クリスティー
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15.「蝶々殺人事件」横溝正史

おすすめ名作ミステリ小説-蝶々殺人事件

1926年に発表された名作。

本作は著者が自選でベスト10に挙げるほどの力作です。

同時期に発表された「本陣殺人事件」と、どちらが名作か当時議論が分かれたのは有名な話。

横溝作品特有のおどろおどろしい雰囲気はなく、都会的でスマートに読める一冊です。

金田一シリーズの影に隠れがちですが、本作は“由利&三津木”シリーズのロジカルな本格ものとして楽しめます。

横溝作品は金田一シリーズだけではないことを証明している傑作です。

蝶々殺人事件 (角川文庫) 横溝 正史
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16.「Xの悲劇」エラリー・クイーン

おすすめ名作ミステリ小説-Xの悲劇

1932年に発表された名作。

ロジカルな作品の王道として必ず名が挙がるエラリー・クイーン。

本作は名探偵ドルリー・レーンで有名な「悲劇」4部作の1作目です。

秀逸なプロットで構成されている本作は、時代を超えて現代でもそのクオリティは色褪せていません。

ダイイングメッセージが示すものとは。一度はふれてみるべき名作です。

Xの悲劇 (角川文庫) エラリー・クイーン
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17.「Yの悲劇」エラリー・クイーン

おすすめ名作ミステリ小説-Yの悲劇

1932年に発表された名作。

「悲劇」4部作の2作目。

Xの悲劇に同じく、名探偵ドルリー・レーンが独特の見地から謎を解き明かしていきます。

Xの悲劇と同じ舞台(ニューヨークとその近郊)ではあるものの、本作はハッター家の面々が奇怪なぶんインパクトがあります。

ホワイダニットに迫るドルリー・レーンの苦悩は必読です。

Yの悲劇 (角川文庫) エラリー・クイーン
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18.「迷路館の殺人」綾辻行人

おすすめ叙述トリック-ミステリ小説

1988年刊行。

“館”シリーズの3作目。

本作にふれてまず目を引くのが“作中作”です(実質的には“作中作中作”)。

特異な条件で形成された“クローズドサークル”は読み手を惹き込む舞台として十分。この条件下で起こる“見立て殺人”が本作のプロットです。

エピローグで明かされる真相は、叙述トリック作品として一読の価値があります。

迷路館の殺人<新装改訂版> (講談社文庫) 綾辻 行人
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19.「ハサミ男」殊能将之

おすすめ叙述トリック-ミステリ小説

1999年刊行。著者デビュー作。

同年第13回メフィスト賞を受賞。

叙述トリック作品としても著名な一冊です。

サイコパスな“わたし”視点の描写に揺さぶられ、伏線に気づきつつもラストまで翻弄されるのは必至。

ハサミ男の犯行を模倣する第三の殺人、その真相を暴くためにシリアルキラーが探偵役をこなすなど、精巧なプロットによって構成されている名作です。

ハサミ男 (講談社文庫) 殊能 将之
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20.「殺戮にいたる病」我孫子武丸

おすすめ叙述トリック-ミステリ小説

1992年刊行。

叙述トリック作品として必ず挙げられる名作。

本作に仕掛けられた叙述トリックはミスリード必至の一級品。巧妙に伏線が張られているものの、一読してそれを読み解くのは至難です。

サイコキラーによる猟奇的殺人の描写がグロテスクなことでも知られていますが、その是非は抜きにしても、一読の価値がある一冊です。

新装版 殺戮にいたる病 (講談社文庫) 我孫子 武丸
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以上が私見でセレクトした名作ミステリ20選ですが、これらに次ぐ名作と呼べる作品群も多数存在するため、追加で5作品をピックアップ。

21.「愚行録」貫井徳郎

第135回直木賞の候補作。インタビュー形式+独白で構成。

愚行録 (創元推理文庫) 貫井 徳郎
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22.「宿命」東野圭吾

秘められたプロットが響く名作。本作発表の前後から社会派推理小説へ推移した感。

宿命 (講談社文庫) 東野 圭吾
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23.「水車館の殺人」綾辻行人

現在と過去。時空を隔てて明かされる事実とは──。

水車館の殺人 <新装改訂版> (講談社文庫) 綾辻 行人
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24.「星降り山荘の殺人」倉知淳

叙述トリック作品。読み手への掲示(テキスト)が頻出。

新装版 星降り山荘の殺人 (講談社文庫) 倉知 淳
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25.「予告殺人」アガサ・クリスティ

フーダニット、ハウダニット、ホワイダニットいずれも秀逸。

予告殺人 (ハヤカワ文庫-クリスティー文庫) アガサ・クリスティー
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以上がおすすめミステリ25作品です。

個々で感じるものはそれぞれなので、一つでも刺さるものがあれば。

一方で、著名な作品でも個人的には推奨から逸れるものも存在します。

冒頭でも示しているとおり、ミステリ作品には一定の緊張感とある種の不可思議さを求めるため、恋愛要素が強いもの、冗長的な描写が続くもの、魅惑的要素に欠けるものなどは、残念ながら推奨作品としてセレクトするまでには至りません。

以下の著名な作品群は個人的な嗜好と合わず、推奨のテーブルには載らなかったものです。

  • 「アヒルと鴨のコインロッカー」伊坂幸太郎
  • 「イニシエーション・ラブ」乾くるみ
  • 「女王国の城」有栖川有栖
  • 「占星術殺人事件」島田荘司
  • 「僧正殺人事件」S・S・ヴァン・ダイン

written by 空リュウ

ドラマ-リバース-湊かなえ-藤原竜也-感想-第1話関連記事:【ミステリ小説】ミスリード必至!おすすめ「叙述トリック」18選

【ミステリ小説】ミスリード必至!おすすめ「叙述トリック」18選

おすすめ叙述トリック-ミステリ小説

ミステリ小説の中でも人気の高い「叙述トリック」作品。

そもそも叙述トリックとは何か──。

ミステリ小説で用いられるトリックの一つで、作中の語り手または地の文によって、読み手の思い込みや先入観を巧みに誘い、ある方向へミスリードさせるテクニックのことをいいます。

いわゆる、アリバイトリックや密室トリックなどの古典トリックとは一線を画し、小説の形式や文体を用いて読み手を欺く手法が多くみられます。代表的なミスリードのテクニックとしては、時系列の入れ替え、作中作、性別・人物の誤認、一人二役(または二人一役)などがあります。

また、フェア・アンフェアが常に隣り合わせの「信頼できない語り手」も叙述トリックでは多く登場します。

ときどき“どんでん返し”を叙述トリックとして紹介している記述をみますが、どんでん返し=叙述トリックというわけではありません。あくまで読み手に先入観を抱かせ、ミスリードを誘うのが叙述トリックです。

叙述トリックが刺さる名作ミステリ7選(+11選)

以下、数ある叙述トリック作品の中でも、インパクトや醍醐味、読後感または余韻を味わえるものを私見で厳選7作品(+11作品)ピックアップしています。評価は個々で異なって当然なので、まずは読んでみることをおすすめします。

「十角館の殺人」綾辻行人 ★★★★★

おすすめ叙述トリック-ミステリ小説

1987年刊行。著者デビュー作。

新本格ミステリの先駆けとなった名作。衝撃の叙述トリック作品として、あまりに有名な一冊です。

不朽の名作「そして誰もいなくなった」(アガサ・クリスティー)のオマージュ作品でもあり、関連づけるなら同作も一読することをおすすめします。

“島”の章と“本土”の章で展開されるストーリーが意味するものとは──。

頭をガツンと殴られるような衝撃の一行が待ち受けています。

十角館の殺人 <新装改訂版> (講談社文庫) 綾辻 行人
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そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫-クリスティー文庫) アガサ・クリスティー
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「異人たちの館」折原一 ★★★★★

おすすめ叙述トリック-ミステリ小説

1993年刊行。2018年本屋大賞発掘部門の「超発掘本!」に選出。

あとがきで著者自身が語っているように、本作は著者渾身の力作。折原一といえば叙述トリックといわれるほど、この分野の名手とうたわれています。

作中作、独白、年譜、関係者インタビューなどテキストを頻出させ、多重文体で読み手を揺さぶり続けます。

過去実際に起きた事件のアレンジ、“異人”の存在、何者かによるモノローグ(独白)、前のめりになる要素がふんだんに盛り込まれた一冊です。

異人たちの館 (文春文庫) 折原 一
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「殺戮にいたる病」我孫子武丸 ★★★★★

おすすめ叙述トリック-ミステリ小説

1992年刊行。本作の叙述トリックはミスリード必至の一級品。

巧妙に伏線が張られているものの、一読してそれを読み解くのは至難です。おそらく真相が明かされた瞬間、読み手の思考は停止し、ミスリードを解明するため再読することになるでしょう。

また、本作は、サイコキラーによる猟奇的殺人の描写が、あまりにグロテスクなことでも有名。その是非はさておき、叙述トリック作品としては外せない作品であることは間違いありません。

新装版 殺戮にいたる病 (講談社文庫) 我孫子 武丸
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「アクロイド殺し」アガサ・クリスティ ★★★★★

おすすめ叙述トリックミステリ小説

1926年に発表された不朽の名作。名探偵ポアロシリーズの3作目。

クリスティー作品の中でも後世に多大な影響を及ぼした作品としてあまりに有名です。

本作の叙述トリックは、称賛と批判を同時に受け、二次的な余波「フェア・アンフェア論争」を巻き起こしたことでも周知されています。

本作については、書評などの予備知識はもたずに一読することをおすすめします。

アクロイド殺し (ハヤカワ文庫-クリスティー文庫) アガサ・クリスティー
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「慟哭」貫井徳郎 ★★★★☆

おすすめ叙述トリックミステリ小説

1993年刊行。著者デビュー作。

重厚な描写が多いことで知られる貫井作品の中でも、代表作として名高い深みのある一冊。

連続少女誘拐事件を背景に、“彼”の視点で進行する描写が奇異に映り、読み手を引き込んでいきます。

被疑者検挙に尽力する捜査本部の俯瞰と、新興宗教に心の救いを求める“彼”視点の描写はどこで交わるのか。

叙述トリックもさることながら、著者が届けたいメッセージの余韻が残る秀作です。

慟哭 (創元推理文庫) 貫井 徳郎
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「ハサミ男」殊能将之 ★★★★☆

おすすめ叙述トリック-ミステリ小説

1999年刊行。著者デビュー作。同年第13回メフィスト賞を受賞。

インパクトのあるタイトルが目を引きますが、読了後、このタイトルが本作の主旨を端的に示していると感じる作品です。

サイコパスな“わたし”視点の描写に揺さぶられ、伏線に気づきつつも読み手はラストまで翻弄されます。

ハサミ男の犯行を模倣する第三の殺人、その真相を暴くためにシリアルキラーが探偵役をこなすなど、精巧なプロットによって構成されている傑作です。

ハサミ男 (講談社文庫) 殊能 将之
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「迷路館の殺人」綾辻行人 ★★★★☆

おすすめ叙述トリック-ミステリ小説

1988年刊行。綾辻作品“館”シリーズの3作目。

「十角館の殺人」の流れからか、“クローズドサークル”の舞台で起こる“見立て殺人”が本作のプロットです。

そして新味をブレンドしているのが、叙述トリックに絡んでくる“作中作中作”。

エピローグで語られる伏線回収の件は、著者の矜持を感じるフェア・アンフェアの境界線でもあります。ラストの真相究明に迫る談義によって、読み手はもうひとつの衝撃を受けることになります。

迷路館の殺人<新装改訂版> (講談社文庫) 綾辻 行人
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以上があくまで私見による叙述トリック作品の傑作7選ですが、以下の叙述トリック11作品も読了したうえでの厳選7選としています(叙述トリック作品以外のミステリ作品は今回は含まず)。以下の作品も精巧なプロットで構成された名作です。個々の感性によって、マイベストになり得る作品群なので、ぜひ一読することをおすすめします。

「仮面山荘殺人事件」東野圭吾

帯のコピー「スカッとだまされてみませんか」がこの作品の謳い文句。東野作品らしく、読みやすく著者の思惑通りに読み進めてしまう一冊です。

「ある閉ざされた雪の山荘で」東野圭吾

特異な舞台設定で起こる連続殺人。劇中の殺人はどこまでが事実なのか、という疑心暗鬼を抱かせる技巧的な作品です。

「霧越邸殺人事件」綾辻行人

クローズドサークルの幻想的な舞台で次々と起きる見立て殺人。綾辻作品ならではの独特の世界観が読み手を引き込みます。

霧越邸殺人事件<完全改訂版>(上) (角川文庫) 綾辻 行人
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霧越邸殺人事件<完全改訂版>(下) (角川文庫) 綾辻 行人
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「修羅の終わり」貫井徳郎

連続交番爆破事件を背景に、三者視点の展開がどこで交わってくるのか。とりわけ陰鬱とした公安内部の事象が記憶に残る作品です。



「夜歩く」横溝正史

某作と同じ手法が用いられている叙述トリック作品。論点はやはり同作と同じ点に尽きますが、これをどう受け取るかは個々の判断に委ねられます。

夜歩く (角川文庫) 横溝正史
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「蝶々殺人事件」横溝正史

金田一の影に隠れがちな“由利&三津木”シリーズですが、本作はロジカルな本格派。横溝作品特有のおどろおどろしい雰囲気はなく、スマートに読める一冊です。個人的には「本陣殺人事件」よりもこちら。

蝶々殺人事件 (角川文庫) 横溝 正史
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「マリオネットの罠」赤川次郎

赤川作品らしく、全体的に読みやすい一冊。シリアルキラーの存在が際立ち、卓越したプロットによって構成されています。ラストで本作タイトルの趣旨も示されています。

装版 マリオネットの罠 (文春文庫) 赤川 次郎
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「倒錯のロンド」折原一

同作家の十八番そのままに、緻密なプロットで構成された叙述トリック作品。書き手が導くミスリードへ預けるほかありません。


「倒錯の死角 201号室の女」折原一

倒錯シリーズの2作目。常軌を逸した事象の連続に読み手は揺さぶられます。ラストの展開は著者の意向が反映されたものでしょう。

倒錯の死角 (講談社文庫) 折原 一
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「ロートレック荘事件」筒井康隆

書き手の作為によって特異な印象が残る作品。これが受け入れられるか否かは読み手の感性次第でしょう。作品自体は214頁と短くまとめられています。

「星降り山荘の殺人」倉知淳

作者からの挑戦状ともとれるテキストが頻出。叙述トリックを看破してミスリードを回避できるか、一読の価値がある作品です。

新装版 星降り山荘の殺人 (講談社文庫) 倉知 淳
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written by 空リュウ

ドラマ-リバース-湊かなえ-藤原竜也-感想-第1話関連記事:【小説】“脳裏に刻まれる”おすすめ「名作ミステリ」25選

【小説】我孫子武丸「殺戮にいたる病」を読んだ感想・私見(考察)

我孫子武丸-殺戮にいたる病-感想-考察-解説

1992年に刊行された我孫子武丸「殺戮にいたる病」(新装版2017年刊行)。

本作は叙述トリックの傑作として必ず挙げられるほど名高い作品です。

本作の叙述トリックは巧妙なプロットをもとに構成されており、ミスリードしたままラストまで読み進めることは必至。そして、真相が明かされた瞬間、おそらく思考は停止するでしょう。

また本作を語るうえで避けられないのが、サイコキラーが次から次へと猟奇的殺人に手を染めていく過程で、その描写があまりにグロテスクなこと。叙述トリック、グロ描写、両面においてかなりの衝撃を受ける作品であることは間違いありません。

以下は、「殺戮にいたる病」の叙述トリックを推考するため、あくまで読了前提としてネタバレで考察しています。

巧妙に人物誤認のミスリードを誘う傑作「殺戮にいたる病」

本作の構成として、蒲生稔、蒲生雅子、樋口の三者視点でストーリーが展開されていますが、このうち稔視点と雅子視点の相関が叙述トリックの肝となっています。

そのうち稔の人物像については、冒頭にエピローグを挿入し、稔=殺人犯である事実を明かしたうえでサイコパスな雰囲気を漂わせています。本作の心臓ともいうべき稔という人物を、とりわけ特異な存在として読み手に印象づけようとする作為がうかがえます。

ほとんどの読み手は、第一章の雅子視点の描写によって、冒頭から「蒲生稔=雅子の息子」とミスリードするはずです。ここに本作の叙述トリックである人物誤認トリックが仕掛けられています。

樋口視点のパートは全体を俯瞰する役割を担っているので、本作の叙述トリックとなっている蒲生家の人物誤認とは直接関係していません。

蒲生家の人物誤認(1) 誤「稔=息子」 / 正「稔=夫」

我孫子武丸-殺戮にいたる病-感想-考察-解説

前述のとおり、本作で読み手がミスリードする人物誤認トリック、それは「稔=雅子の息子」という先入観。これが、正しくは「稔=雅子の夫」です。

読み手の多くは稔=大学生と誤認しますが、稔が大学関係者であることをほのめかしている伏線は作中にいくつか張られています。

稔が試験のために大学へ出かけたのが昼食を終えてからだったので、雅子は二時頃になって息子の部屋へ入った。

講談社文庫 新装版 第二章 3 二月・雅子 P51抜粋

人物誤認のミスリードをしている場合、“大学生の息子が大学へ出かけたあと、雅子は息子の部屋へ入った”と解釈するはずです。作中の事実は、“大学助教授の夫・稔が大学へ出かけたあと、雅子は息子の部屋へ入った”です。

「稔さん。大学はどうしたの?」
「……ちょっと熱っぽいから。どうせ授業は一つしかなかったし。前期は皆勤した講義だしね、一回くらい休講しても構わないさ」

講談社文庫 新装版 第三章 2 前年~一月・稔 P70抜粋

同じく人物誤認のミスリードでこの会話を解釈すると、“雅子”と“大学生の稔(息子)”の会話になりますが、実際は“容子(稔の母)”と“大学助教授の稔(雅子の夫)”の会話です。学生の側からも解釈できる内容ですが、“休講する”という立ち位置は教鞭をとる側の人間であることをほのめかしています。

「オジンってのを訂正したら、考えてやってもいい」
「分かったわ──お・じ・さ・ま」
 彼は思わず吹き出した。面白い娘だ。

講談社文庫 新装版 第三章 2 前年~一月・稔 P78抜粋

おそらく多くの読み手がここで違和感を覚えるはずです。ミスリードしている場合、少女から見れば大学生の稔はオッサンというという見立てに不自然さはありません。しかし、大学助教授の稔は43歳なので、少女の発した言葉はきわめて自然といえます。ミスリードに気づくかどうかは別として、この描写は伏線ではないかと推察する読み手は少なからずいるはずです。

蒲生家の人物誤認(2) 誤「母=雅子」 / 正「母=容子」

我孫子武丸-殺戮にいたる病-感想-考察-解説

雅子視点のパートは、“稔=雅子の息子”という人物誤認のミスリード描写が主となっていますが、それとは別に、“母=義母(容子)”の存在をほのめかす伏線もいくつか存在します。

そこに違和感を覚えれば、人物を誤認していることに気づけるかもしれません。

夫の給料は、贅沢を言わないかぎり、彼女が働きに出る必要のないほどはあったし、彼がもともと両親と住んでいた一軒家も、五年前に義父が他界してからは夫の名義となっている。

講談社文庫 新装版 第一章 1 二月・雅子 P12抜粋

雅子視点で夫の両親との同居について描写されていることから、義父の他界が掲示されているものの、義母については明示されていません。これはつまり、義母は存命で同居していることを意味します。

母と娘と一緒に作ったおせちを食べ、年賀状を見たりテレビを見たりしているうちにもう夕食の時間だ。

講談社文庫 新装版 第四章 3 二月・雅子 P114抜粋

三人称描写として見過ごしがちですが、この一文は雅子視点の伏線です。「母と娘と」という描写は、雅子視点からみると、「義母・容子」と「娘・愛」と“三人でおせちを作った”ということになります。

雅子はみんなが揃ったある日の夕食で、まず娘の愛に、それとなく旅行の計画を持ち出した。
「ねえ、愛ちゃん。温泉なんか、行きたいわねえ」
「そうねえ」と娘はさほど乗り気でもなさそうな返事。
「お母さんと行けばいい」とむしゃむしゃご飯を噛みながら夫が口を挟む。

講談社文庫 新装版 第五章 3 二月・雅子 P146抜粋

一見、夫が娘に投げかけた言葉のようにみえますが、実際は夫が妻に対して投げかけた言葉。夫視点の“お母さん”は、同居している「実母・容子」を指すことになります。

この人物誤認トリックを仕掛けるために、ラストまで明かされない人物名が二人存在します。それが、「実母・容子」と「長男・信一」です。

蒲生家の人物誤認(3) 「息子=長男・信一」

我孫子武丸-殺戮にいたる病-感想-考察-解説

三者視点のうち、稔視点のパートのみ時系列が先になっています。これは雅子が息子(長男・信一)に対して不審を抱いていることを描写し、読み手をミスリードさせるためのプロットによるもの。

長男・信一は、(時系列が先の)稔の所業に気づき、独自に追跡をはじめています。雅子視点のパートは、この信一の一連の追跡や仕草に対して雅子が疑惑を抱いているという役割を担い、巧妙にミスリードを誘っています。

長男・信一の部屋にあった黒いビニール袋や8ミリビデオは、いずれも信一が夫・稔の所業を追跡して発見したものです。

「おい! その人に見せてやってくれ」野本が声をかけると、担架を運んでいた男達は立ち止まり、死体を覆っていた毛布をめくって見せた。女は倒れこむように担架にしがみつくと、再び大声で泣き始めた。
樋口は後ろから近づき、女の肩に手をかけると、訊ねた。
「……あんたの、息子さんなんだね?」
返事はなかったが、女は何度も頷いているようだった。

講談社文庫 新装版 第十章 10 二十九日午後十一時二十五分・樋口 P340抜粋

ラストの章の樋口視点のパートで描写される、殺害された息子というのは、つまり長男・信一です。ミスリードしている読み手は、“雅子の息子である稔は逃亡している”と人物誤認しているので、混乱をきたしているはずです。

いうまでもなく、ミスリードしている場合、本作ラストの“朝刊一面トップ”のテキストによってすべてを察することになります。しかし、前述のとおり、おそらく何がどうなっているのか理解できないまましばらく思考は停止するでしょう。そして人物誤認トリックに気づいた瞬間、そのミスリード感に衝撃を受けるはずです。

人物誤認していたイメージをリセットするためには、「稔=夫」「息子=信一」「母(お母さん)=容子」をふまえて再読すれば、すべて消化できるでしょう。そして同時に本作のプロットの精巧さにも驚嘆するはずです。

written by 空リュウ

新装版 殺戮にいたる病 (講談社文庫) 我孫子 武丸
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