湊かなえ

【小説】湊かなえ「リバース」を読んだ感想・私見

湊かなえ-リバース-小説-感想

イヤミスの名手・湊かなえが男性を主人公として描写した「リバース」。

本作は2015年に刊行され、2017年に主演・藤原竜也でドラマ化されています。

湊作品は女性視点で名を馳せた作品がほとんどですが、本作は著者が初めて男性視点で描写した作品ということでも話題になりました。

過去をたどることで「リバース」するものとは

大学を卒業後オフィス機器販売の会社に就職し、神奈川県をエリアに営業活動に勤しむ深瀬和久。平凡なサラリーマンの深瀬はコーヒーに魅せられ、コーヒーに執着することで自分の居場所を見出そうとします。

構成としては、深瀬の視点から学生時代のゼミ仲間4人の相関関係を描写し、5人の現在と、過去のある出来事が密接に絡む展開になっています。前半部分の布石は淡々とした描写が続くため、やや退屈に感じる展開が続きますが、後半に入って徐々に伏線が回収されていき、湊作品ならではの読後感が味わえます。

過去の出来事から「リバース」した告発文

湊かなえ-リバース-小説-感想

深瀬には口外することができない過去があります。

それは事の重要性によるものであり、また深瀬の人間性がそうさせているともいえます。

「深瀬和久は人殺しだ」

その深瀬の過去にふれたある人物から届く告発文によって、深瀬は過去と向き合う決心をします。そして、その決心がもとになり、核心に迫るストーリーが徐々に展開されていきます。

深瀬の人間性については、読み進めるにつれてつかめていくことができますが、深瀬視点で描写される思考に違和感を感じる読み手は少なくないのではないでしょうか。

特に仲間に対する屈折した心理は、スクールカーストの下位の視点を連想しますが、これに共感できる部分がなければ、文字を追うのが苦痛に感じるかもしれません。

現在から過去へ「リバース」して見えたもの

湊かなえ-リバース-小説-感想

深瀬の決心は未知の過去をたどることを意味しますが、それによって深瀬の知らなかった仲間の過去が明らかになります。

前半の伏線を回収するに至る、深瀬の一元視点で描写される展開は、読み手のミスリードを誘うに十分な効果があります。ただ、登場人物が限定されるぶん、ある程度の予測はつくのかもしれません。

真相が明らかになったあと深瀬がとった決断とは──。もし自分ならどうするか、そう読み手に想起させる描写は、さすがイヤミスの名手と感じざるを得ない巧さです。

written by 空リュウ

【小説】湊かなえ「告白」を読んだ感想・私見

湊かなえ-告白-小説-感想

湊かなえ作品の中でもイヤミスの代表作として名高い「告白」(2008年刊行)。2009年度の本屋大賞受賞によって、本作の知名度は一気に高まりました。

本作は湊かなえデビュー作にして代表作となったことでも知られ、2010年に主演・松たか子で映画化もされています。

※「読後、イヤな気持ちになるミステリ」の略称・俗語。

主観と客観が交錯する“独白”形式の「告白」

S中学校に赴任する1年B組担任・森口悠子の娘・愛美の死に起因した、5人の「告白」。本作は、登場人物の“独白”を一人称の視点で描写し、全6章(第1章と第6章は同一人物)で構成しています。

一人称の独白は叙述トリックで使われるケースもありますが、本作では主観と客観のギャップを描写しています。やや独善的に語られる独白は、数あるイヤミス作品の中でも、湊かなえならではのあと味の悪さです。ほかの湊作品でもいえることですが、心に何かが刺さるような読後感を覚えます。

少年Aと少年Bに宣告する戦慄の復讐

湊かなえ-告白-小説-感想

生徒を前にして担任・森口悠子の告白で幕を開ける本作は、第1章が構成上の本章となっています。この独白が第2章以降の独白に影響を及ぼし、少年Aと少年Bの人生をも揺さぶります。

娘の死について宣告(告白)する森口悠子の復讐劇は、並の神経の少年であれば立ち直れないぐらいの衝撃でしょう。

思い込みによって歪んでいく何か

湊かなえ-告白-小説-感想

一人称の独善的視点によって、章ごとの告白者の主観的な視点と、別の人物から見る主観的な告白(別の告白者から見ると「客観」)にずれが生じています。そのずれはまさに思い込みによるずれですが、それによって少年Aと少年Bの人生は歪んでいきます。

そこに面白さを見出せれば、本作は受け入れられるのではないでしょうか。逆に何も感じないのであれば、嗜好が違うということで片付けてしまうしかありません。

フェイクかリアルか──

湊かなえ-告白-小説-感想

一人称の独白により、所どころにフェイク(虚言)が含まれています。おそらくここがフェイクだろうというのは察しがつくと思いますが、告白者は、相手にリアルだと思わせることで他力本願の陰謀を仕掛けていきます。

その陰謀が引き金になって、徐々に壊れていく大切なもの──。一人称で語られる独白によって、崩壊していく様が告白者視点で描かれています。

個人的にはいくつか釈然としない箇所はありますが、ラストのシーンなどは“物理的な事象がクリアできればリアル、できなければフェイク”という解釈でもいいのかなと不承不承消化しました。

written by 空リュウ

告白 (双葉文庫) 湊 かなえ
created by Rinker
テキストのコピーはできません。