5人のジュンコ

【小説】真梨幸子「5人のジュンコ」エピソード0を考察

真梨幸子-5人のジュンコ-考察

イヤミス作品として名高い真梨幸子「5人のジュンコ」(2014年刊行)。

2015年に、WOWOW連続ドラマW「5人のジュンコ」(主演・松雪泰子)で映像化もされています。

本作にふれて読み手がまず最初に感じることは、登場する人物が見事なまでに他者を蔑んでいるという点。そのネガティブな視点の描写は、読み手に不快感を増幅させるのに十分な効果があり、それがイヤミス作品として名高い所以でもあります。

そして、本作のテーマとして描かれている「バタフライ効果(エフェクト)」は、5人のジュンコを不幸へ誘う負の連鎖。

※些細なことがあることをきっかけに後に大きな影響を及ぼす連鎖的な現象。

連続不審死事件の被疑者(容疑者)・佐竹純子から端を発し、「ジュンコ」という名で連鎖する人間の不幸を陰鬱とした表現で描ききっています。

以下は、エピソード0およびエピソード0に連鎖する各エピソードを検証するため、ネタバレ前提で考察しています。

バタフライ効果(エフェクト)で連鎖する「5人のジュンコ」

主に5人のジュンコを負の連鎖へ誘っているのは、佐竹純子が被疑者となっている連続不審死事件ですが、実際は5人が直接的に相関しているわけではありません。バタフライ効果をテーマとしていることからも間接的な相関となっています。

展開の中心になっているのは、佐竹純子が起こしたとされる連続不審死事件を追っているノンフィクション作家・アシスタントの田辺絢子。

田辺絢子は取材を通じて篠田淳子と守川美香(諄子の娘)に接触していますが、唯一、福留順子だけが5人のジュンコの中でもっとも遠いところに位置し、バタフライ効果の末端の役割を担っています。

これは、ある意味、バタフライ効果、つまり、この世の中のすべてはなにかしら影響しあっている

福留順子自身に、作中でバタフライ効果を想起させることで、5人のジュンコの連鎖を暗示しています。

エピソード5 佐竹純子と篠田淳子

真梨幸子-5人のジュンコ-感想・考察

エピソード0を考察するうえで、重要になってくるのが佐竹純子と篠田淳子の関係性です。

以下は、いずれもエピソード5・佐竹純子の章で、佐竹純子が語っているセリフ。

“篠田淳子のことも、ちゃんと調べた?”

”私の腹心の友。私とは一心同体だった子よ。あの子に影響されて、今の私があるといってもいい。だから、篠田淳子のことを調べれば、おのずと私のことも分かるはず”

作中では、取材を進める田辺絢子の視点で、「佐竹純子と篠田淳子は、佐竹純子を主とし、主従関係にあったのでは」と読み手をリードしています。

田辺絢子が取材をした同級生のミツエも「元凶は佐竹純子」と語っているように、佐竹純子はひと癖ある人物であることは間違いないようですが、エピソード0で明かされる篠田淳子の実像を考察すると、ミツエの篠田淳子評と田辺絢子の見解は、いずれも見当違いという可能性が高くなります。

エピソード1 篠田淳子の独白

真梨幸子-5人のジュンコ-感想・考察

エピソード1は篠田淳子の章ですが、本作で唯一、篠田淳子の章だけがすべて一人称の視点で語られています。

つまり、相手のセリフこそあるものの、エピソード1で描写されている地の文は、ほぼ篠田淳子の独白です。

エピソード1の篠田淳子の独白は、佐竹純子という人物に特定の色をつけさせる役割を担っていると考えられます。

そのため、エピソード1の独白は、篠田淳子が客観的な事実を語っているとは限らず、すべてを鵜呑みにすることはできません。どこかで脚色している可能性があり、客観的な事実は別のところにあるのかもしれません。特に過去についての独白は、すべて自己都合の主張という可能性さえあります。いわゆる、「信頼できない語り手」です。

そう考えると、ピソード5で佐竹純子が発した“あの子に影響されて、今の私があるといってもいい”という告白のほうが真実味があります。仮に、“篠田淳子のことを調べれば、おのずと私のことも分かるはず”という助言の裏をとる描写があったとしたら、それが真実なのではないか、と考えます。

エピソード0 3つめの殺人事件

真梨幸子-5人のジュンコ-感想・考察

エピソード0は、エピソード1と同様、地の文が一人称の独白形式で語られています。

エピソード0を考察するうえで切り離せないのが、エピソード3の守川正志との相関(諄子の息子)。

田辺絢子は取材の過程で、守川正志が佐竹純子に殺害された可能性を追っていますが、これは結果的に誤った推察となっています。

エピソード5の佐竹純子の章で、守川正志殺害の被疑者となっている大野美登里も初公判の冒頭陳述でこれを否定し、真実を知っているであろう佐竹純子も同じく否定しています。

これによって、守川正志殺害の事件は、佐竹純子が被疑者になっている伊豆連続不審死事件、大野美登里が被疑者になっている守川茂(諄子の夫)・美香殺害事件とは別の事件とみなせます。

そして、エピソード0で描写されている佐竹純子の声と思われるセリフによって、守川正志を殺害したのは篠田淳子であることが推察できます。

また、複数の男性から金銭を搾取したのは篠田淳子であることが暗示されていることからも、本作でフィクサーとなっているのは篠田淳子ということがうかがえます。

written by 空リュウ

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【連続ドラマW】「5人のジュンコ」を観た私見・感想

WOWOW-連ドラW-5人のジュンコ-感想

WOWOW連続ドラマW「5人のジュンコ」(2015年、主演・松雪泰子)は、原作・真梨幸子の同名小説を映像化した作品です。

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イヤミスの書き手として知られる同著者の作品で、「殺人鬼フジコの衝動」に続く映像化作品ということで話題になりました。

※「読後、イヤな気持ちになるミステリ」の略称・俗語。

全体の流れとしては、ジャーナリストである田辺絢子(松雪泰子)を中心に、登場する5人のジュンコそれぞれのパートでストーリーが展開されていく構成。5人のジュンコのうち、佐竹純子(小池栄子)が起こしたとされる事件は、実際に起きた首都圏連続不審死事件がモチーフになっているようです。

見えない何かでつながる「5人のジュンコ」

連続ドラマW-5人のジュンコ-感想

原作のテーマになっているバタフライ効果(エフェクト)は、「些細なことが後に大きな影響を及ぼすに至る連鎖的な相関」を描写しています。これが本作でいう「ジュンコ」という名。そして、ジュンコという名でつながるその相関はすべて負の連鎖です。

登場人物の「5人のジュンコ」は、人にはいえない闇を抱えている女性たち。その5人のジュンコの心の深淵へ切り込んでいく描写が脳裏に刻まれます。

5人のジュンコをつなぎ、展開の起点となっているのがジャーナリスト・田辺絢子。その田辺絢子は過去に起きたある事件をきっかけにノンフィクション作家・久保田芽依(渡辺真起子)に従事しています。

第1話冒頭で描写されていますが、展開していくうえでキーパーソンになっているのが、連続不審死事件の被疑者(容疑者)・佐竹純子です。田辺絢子も佐竹純子が関与したとされる事件を追っています。佐竹純子を演じる小池栄子は、5人もの命を奪ったとされる不気味な悪女を立体的に映し出すことに成功しています。

そして、佐竹純子の過去をたどっていくうえで浮上してくる中学時代の同級生・篠田淳子(ミムラ)も強い個性を放っています。ミムラの怪演も小池栄子に引けを取らないため、密接に絡む関係であることからも、この二人がとりわけ強烈な印象を与えています。

5人のジュンコの心の深淵に潜む闇

連続ドラマW-5人のジュンコ-感想

それぞれのシーンで描かれている女性ならではの心理描写とその演出は、5人のジュンコの心の深淵に潜む闇を鋭く映し出しています。5人のジュンコを演じたキャストそれぞれが、インタビューでも“女の怖さを感じた”と語っているように、ジュンコの心の闇を察したとき、戦慄が走るような感覚を覚えるかもしれません。

彼女にさえ出会わなければ、全然違った人生を送ってたはず

5人のジュンコのうち、誰かが発するセリフですが、いずれの身に置き換えても成立する含みがあります。

原作のエピソード5とエピソード0で真相に迫っている、“佐竹純子と篠田淳子の過去”についても本作の最終話で描写されていますが、その相関は陰鬱としています。

連続ドラマW-5人のジュンコ-感想

エンドクレジットの含みのある演出からも、おそらく真相はこういうことだろう、という導きがうかがえます。個人的には、仮に続編が制作されるならぜひ観てみたいと思える作品です。

“キャストインタビュー”

~印象深かったコメント(抜粋)~

「5人のジュンコ」の魅力について

松雪泰子(田辺絢子役)

人間の悪意。その暗部が様々な形で、それぞれのキャラクターで表現されていくのが非常にリアリティーがあって、だからこそぞっとするというようなものなので。のぞき見をするような感覚で見ると非常に楽しめるのかな。この中にはいたくないと思いましたけど。怖くて。

小池栄子(佐竹純子役)

やっぱ、女が主役ってとこじゃないですか。ここまで強烈なキャラクターの女性たちが、ぶつかりあってくのは、同姓は特に好きだと思いますね。誰かしらのジュンコに自分を重ね合わすことができるし、男性は女って生き物は恐ろしいもんだなって思うと思いますし。でもそれぞれのジュンコに女の本質ってものがちゃんと散りばめられていて、愛らしくもあり、女同士の会話って面白いですよね。これは男の人には理解できない女の業みたいなものが、ウズウズしてる感じになっていますよね。

written by 空リュウ

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