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2018年に刊行された中山七里「護られなかった者たちへ」。
本作は生活保護受給にまつわる一連の事件を描いた社会派ヒューマンミステリ。2021年に映画化(主演・佐藤健)もされています。
トーリーテラーであり、ラストの仕掛けに定評のある著者渾身の傑作。
映画では、とある人物が原作とは異なる設定で描写されています。原作を読了してから映画を見たほうがいくつかの点で醍醐味がありますが、もちろん映画だけの鑑賞でも楽しめます。
以下は本作を考察するにあたり、ネタバレに近い表現も含まれています。
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社会保障制度の表裏を描く社会派ヒューマンミステリ「護られなかった者たちへ」
東日本大震災から4年後、仙台市内の無人アパートで、手足を縛られた状態の餓死した遺体が発見されるという事件が事の発端。
さらに、同様の事件が連続して発生し、いずれの被害者も福祉保健事務所の職員という事実が判明します。
序章は事件を捜査する警察側の視点で進行し、生活保護受給が事件に起因しているのではという筋立てで展開されていきます。
2012年以降150万を超える世帯で受給されている生活保護をめぐり、国の予算に従って受給申請を弾く側の実情と弾かれる側の悲哀を如実に映し出しているリアルな描写。どちらの立ち位置からもフラットな視点で読み手に訴求しています。
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倒叙形式を彷彿とさせる描写
本作では倒叙形式を連想させる展開でストーリーが進行していきます。
宮城県警捜査一課の刑事・笘篠と服役を終え出所した利根の二者それぞれの視点から描かれているプロットは、実に練られたものであり、本作が傑作である所以です。
ミステリに多くふれている読み手からすると、一見平易にも思える展開のどこにフェイクがあるのか、疑心を抱きながら読み進めることになるはずです。
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護りたかった者からのメッセージ
本作はミステリであり、社会保障制度へ一石を投じる意思をも感じる社会派小説でもあります。
完全なネタバレは避ける意味でも明示することはできませんが、とある人物からのメッセージは護られるべき人たちへの訓示のようでもあります。
ラストで明かされる著者渾身の仕掛けは、思わず唸ってしまうしまう秀逸さ。社会福祉の表と裏を垣間見つつミステリの醍醐味も味わえる本作は、一読の価値がある一冊に違いありません。
written by 空リュウ
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