ファイターズ

【NPB2016日本一】北海道日本ハムファイターズ3度目の王座

2016日本シリーズ-北海道日本ハムファイターズ優勝

3勝2敗と星1つをリードし、日本一に王手して迎えた日本シリーズ第6戦。

ファイターズが大量10得点を挙げて広島東洋カープを下し、見事10年ぶり3度目の日本一の座に輝きました。

第2戦終了時点では、第1戦、第2戦とホームで2連勝を挙げたカープが、日本一になる確率が高いといわれていました。しかし、ファイターズはアウェイで2連敗したものの、ホームに戻って3連勝。その後再びアウェイに移動して、今度は勝ちきり、4勝2敗で日本一の栄冠を手にしています。あくまで単なる確率の話ですが、野球に限らず、過去のデータでは計れないものも多く存在するということの証です。

シリーズの潮目が変わった第3戦

第1戦、第2戦とファイターズは自分たちの野球がほとんど何もできず。安打や四球で出塁はするものの、打線が繋がらずちぐはぐさが目立ちました。逆に、カープは足を絡め、適時打に本塁打と、持ち味が発揮できた結果の連勝。初戦の先発ジョンソンも粘り強く要所を凌ぎました。カープ打線はシーズン中と同様の繋がりを見せ、一気にたたみ掛ける強さを発揮しました。

結果に充足感のあるカープと、何もできずストレスフルなファイターズ。第3戦を前にして、メンタル面でもかなりの差があったはずです。それほど勢いはカープ有利だったといえます。1、2戦をホームで連勝したカープは、勢いに乗って一気に4連勝で決めたいのが心情だったでしょう。一方、ファイターズは第3戦を札幌に移し、DHで大谷を3番に据えてムードを変えたいところ。

第3戦の先発は、カープが大黒柱黒田、ファイターズが今期チーム最多勝の有原。この日の黒田は立ち上がりは今ひとつでしたが、立て直してからの2回以降のピッチングが素晴らしく、ファイターズ打線に付け入る隙を与えませんでした。特に両サイドのコーナーに投げ分けるツーシームとカットボールが抜群。明らかに、この投球術にファイターズ打線はお手上げムードでした。

しかし、この渾身の投球が負荷になったのか、足にハリが出たとの理由で黒田は6回途中で降板。ここから流れが少しずつ変わっていきました。鉄板の継投で逃げ切りを計ったカープでしたが、8回二死二塁で、三番大谷を敬遠する策を選択。二死一、二塁の状況をつくり、四番中田との勝負に出ました。この選択がシリーズの潮目を変えたポイントだったように思います。

曖昧なベンチワークに起因する拙守、期待に応えた四番

2016-日本シリーズ-北海道日本ハムファイターズ

中田の放った打球はドライブのかかったレフト前への当たり。守備位置が深すぎたのか、判断に迷って飛び込んだ松山の守備力に問題があったのか。おそらくどちらもでしょうが、前者の場合、突っ込まずにワンバウンドでキャッチしていれば大谷の生還はなかったはずです。後者の懸念があったのであれば、守備固めを行うべきシーンでした。

一方、目の前で大谷を敬遠された四番中田は、期するものがあったでしょう。ネクストバッターズサークルで自ら視界を遮るかのように俯き、自分の打席に集中しようとする姿が印象的でした。決して会心の一打ではありませんでしたが、結果を出したことが評価に値します。シーズン中の打率は決して高くないですが(2016年.250)、打点王を2回(2014、2016)獲得しているだけあって、勝負どころの打席では結果を残しています。これが好転の起爆になったのか、第4戦では本シリーズ初の本塁打を放っています。

2-2の同点で延長となった10回裏も同じような場面。ファイターズは二死一塁から西川が二盗を決め、二死二塁の状況で打者大谷。ここでもカープの外野は深めの守備位置でした。二塁走者は俊足の西川。二死という状況からも西川は思い切ってスタートを切れます。

この条件だけでも前進守備が前提になるはずです。深めに守ると、仮にシングルヒットでも楽に生還できてサヨナラの場面。さすがにベンチもそういう想定はあったはずですが、カープの意図が計れませんでした。結果、大谷が低めのボールをうまくはじき返し、打球は一二塁間をゴロで抜けました。案の定、西川は悠々サヨナラのホームイン。外野の守備位置を確認した二塁走者の西川は、シングルヒットで楽に帰れる、とほくそ笑んだのではないでしょうか。

シリーズの流れをたぐり寄せた第5戦

続く第4戦を中田とレアードのホームランでファイターズが勝利し、2連敗のあとの2連勝で、2勝2敗のタイに戻しました。ホームの利があったとはいえ、明らかに流れはファイターズへ傾きつつあります。

第5戦の先発は、カープが中4日でジョンソン、ファイターズがシリーズ初登板の2年目加藤。どちらも負けられない戦いであることに変わりありませんが、中4日のジョンソン登板は3連敗阻止の表れでしょう。

ベストコンディションではなかったはずですが、ジョンソンのピッチングはやはり一流でした。6回を投げて4安打無失点。安定感はカープ投手陣の中でも群を抜いています。

主導権を握らせない巧みなベンチワーク

2016-日本シリーズ-北海道日本ハムファイターズ

試合が動いたのは7回。カープはこの回からジャクソンに代わり今村がマウンドに上がっています。シリーズ序盤は結果が出ていませんでしたが、徐々にフィットし始めた先頭打者の田中賢介が四球で出塁。犠打と安打で一死一、三塁としたあと、一番岡を迎えました。岡が放った打球はセンターへの浅いフライ。三塁走者は俊足の田中賢介。白井三塁コーチの判断はGoでした。クロスプレーになるかと思われましたが、絶好のスタートを切った田中賢介の足が勝りました。7回裏、ファイターズは1-1の同点に。

8回はカープがジャクソン、ファイターズが谷元に継投し、両投手ともに相手打線を零封。次いで、9回のマウンドに上がったのはカープが中崎、ファイターズがバースです。バースは9回表のカープの攻撃を難なく抑えました。シリーズを通していえたことですが、とりわけバースのピッチングはどんな場面でも抜群の安定感を見せました。

本シリーズの何かをつかんだ9回裏

2016-日本シリーズ-北海道日本ハムファイターズ

ここまで本シリーズの西川は決して好調とはいえない成績(20打数2安打、打率.100)。しかし、この場面での西川に大いに期待していました。どんなスポーツでも“もっている選手”という稀有な存在が必ずいます。ファイターズでいうところのそれが、中田であり大谷であり西川。この大きなポテンシャルを秘めた稀有な存在は、何かやってくれるんじゃないか、という期待をもたせてくれます。その感覚は大きな場面になればなるほど膨らみます。このシーンもまさにそうでした。西川に対する期待値は、ファイターズファンなら同じような感覚を抱く人は多いはず。

ドラマが起きたのは初球の変化球を見送ったあとの2球目でした。狙いすましたかのような西川の鋭いスイングは、中崎の渾身のストレートをバットの芯でとらえました。打球は強く弾かれ、ファンが待つ右中間スタンドへ一直線に飛び込みました。5-1、劇的なサヨナラ満塁ホームラン。日本シリーズでのサヨナラ満塁ホームランは、史上2人目の快挙です。

西川は試合後のインタビューで、「目の前で岡さんが死球を受けたことで闘志がみなぎった」という内容のコメントを残しています。天性の資質ももちろんですが、気持ちが乗るとさらに大きな力を発揮するタイプです。

この試合に勝利したことで、ファイターズは3勝2敗と星一つリードしました。続く第6戦を圧勝して4連勝で日本一の座に就いたことは前述のとおりです。選手の個の能力があるのはもちろんですが、このシリーズはベンチワークの勝利といっても過言ではありません。チャンピオンになったことで、来年は他チームからのマークも厳しくなります。連覇は容易ではありませんが、若い選手が主のチームでもあり、可能性は未知数です。歯車が狂ったときに修正できるかが鍵ですが、逆に、勢いに乗ったときは想像以上の躍進も十分にあるはずです。

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written by 空リュウ

【2016パ制覇】北海道日本ハムファイターズ11.5差からの逆転劇

2016日本ハムファイターズ-パリーグ制覇

2016北海道日本ハムファイターズ-パリーグ制覇

北海道日本ハムファイターズ、2016年パシフィック・リーグ制覇。

最大11.5のゲーム差をひっくり返し、記録はもちろんのこと記憶にも残るシーズンとなりました。“シーズン最速でマジック点灯か”ともいわれていたソフトバンクに追いついたのは驚愕の一言。

近年のファイターズはパリーグ上位争いの常連チームになっています。ここ数年の成績だけを見れば、“投手力があり、若い選手が主体でチームとしてまとまっている”というイメージをもつ程度かもしれません。

しかし、Bクラス低迷時期から地道にチーム力を上げてきた礎があっての今があります。

ビッグバン打線といわれ注目された時代があり、北海道に移転し地域に根ざした球団経営の成功、BOSとよばれる統計的情報システムを先行導入、また、積極的なトレードの実施。ドラフトで獲得した資質のある選手を育て、日本野球に順応できる外国人選手も数多く契約しました。積み重ねた実績が実って、現在のチームが形成されています。

奇跡を起こしたいくつかの軌跡

2016年の大逆転優勝の要因は、個々の成長に加え、不測の事態における英断が奏功したといえるでしょう。シーズン中のアクシデントはつきものですが、一見マイナスとも思えることも結果的にプラスに転換しました。首脳陣が下した判断に選手が見事応え、それらが好結果につながりました。

超一流の二刀流に

北海道日本ハムファイターズ-大谷翔平-11

2014年
234打席│212打数│58安打│10本塁打│31打点│21四死球│打率.273│長打率.505│出塁率.338

2016年
382打席│323打数│104安打│22本塁打│67打点│54四死球│打率.322│長打率.588│出塁率.416

単純計算で、打撃機会が約1.5倍増えたことに対し、安打数、本塁打数、打点、四死球すべてがほぼ倍増しています。中でも長打率.588、出塁率.416は驚異的。長打率.588はスラッガーと呼ばれる数字に匹敵します。長打とは二塁打以上の安打(本塁打含む)のことを指しますが、大谷の場合、パンチ力もさることながら走力も兼ね備えていることが長打率アップにつながっています。単打を二塁打にできる足は大きな武器です。

2012年までファイターズに在籍し、身体能力が高く球界屈指の打者として知られている糸井の2016年成績(オリックス在籍)と比較しても何ら遜色がありません。

616打席│532打数│163安打│17本塁打│70打点│82四死球│打率.306│長打率.451│出塁率.398

しかも、ヒットを放つタイミングも効果的なシーンが多く、逆転、勝ち越しなど、ここ一番で点が欲しいときに打っています。進塁したベース上で自軍のベンチに向かってガッツポーズしているシーンを何度も見ました。

また、特筆すべきは天性の資質。193cmの長身で手足が長いですが、内角のボールに対しても肘をたたんで巧く打ちます。身体の使い方がとてもしなやか。おそらく、野球以外のスポーツをしても多くの競技で大成していたでしょう。マンガの世界から飛び出してきたかのようなスーパースターが、ファイターズに入団してくるとは、ファンも想像すらしていなかったことでしょう。

守護神から先発ローテーションの一角へ

北海道日本ハムファイターズ-増井浩俊-7

ファイターズのリリーフ陣は抜群の安定感がありました。残した数字もリーグ屈指。特に2012年の増井は、登板数73、45ホールドを記録し、文字どおり大車輪の活躍をしました。シーズン終了後には、指揮官栗山監督も「増井には負担をかけてしまった」と回顧しています。

2016年開幕当初は順調なすべり出しに見えましたが、夏を前にして防御率6.30と落ち込み、それまでの安定感が影を潜めました。復調の気配も見えず、ついには一軍登録抹消。

本来の調子を取り戻せない守護神に、首脳陣が下した判断は先発転向という賭けでした。

この配置転換もまた奏功しました。2010年の入団初年度以来となる先発でしたが、先発転向後は6勝1敗、防御率1.10と抜群の成績を残しました。増井の先発転向が逆転優勝の要因の一つであることは明らかです。

30試合│10勝│3敗│10セーブ│1ホールド│完投2│完封勝1│勝率.769│投球回81.0│奪三振71│防御率2.44

勝率.769はチームへの高い貢献度を示し、防御率2.44はクオリティ・スタートの数値にも充当できます。さらに、9月には自身初の月間MVPも獲得し、ファンとしても忘れられないシーズンになりました。

また、増井の代役としてクローザーを務めたマーティンも、最終的に防御率1.07、2勝21セーブ19ホールドという文句なしの成績を収めました。この人選がハマったことも増井の先発転向に大きく影響しています。

覚醒したリードオフマン

北海道日本ハムファイターズ-西川遥輝-7

西川が一軍に定着し始めた頃、“このポテンシャルのある選手、何かもったいないな”とよく感じたものです。秘めた能力はかなり高いものの、荒削りで本来の力がなかなか発揮できず、期待がふくらむばかりで歯がゆく感じていました。

個人的には、西川のスイングは綺麗な“扇”を描いているように感じます。ダウンスイングのバットの軌道がそう感じさせるのでしょう。

2015年
521打席│442打数│147安打│5本塁打│35打点│盗塁30│64四死球│三振98│打率.276│長打率.391│出塁率.368

2016年
593打席│493打数│155安打│5本塁打│43打点│盗塁41│76四死球│三振113│打率.314│長打率.398│出塁率.405

リードオフマンとしてフォーカスするのは出塁率の大幅な上昇。安打数、四死球の増加がそのまま反映されています。走力がある上にパンチ力も兼ね備えていることから長打率は高いバッターです。三振がやや多い傾向にありますが、この数字を減らし、より球を見極めて四球を増やせば、さらに出塁率はアップするはずです。

安打数に影響を及ぼす打球の方向については、レフト方向への意識が強くなっていることが伺えます。しかし、依然として“センターからライトへ強い打球を打てるバッター”という印象です。多くの左打者のリーディングヒッターがそうであるように、レフト方向にヒット性の強い打球が飛ぶようになれば首位打者も視野に入ってくるはずです。

常勝ファイターズを確立するには、このセンス溢れるリードオフマンのさらなる飛躍が鍵になる、と大きく期待しています。現状、チーム事情から一番を担っていますが、将来的には、三番を任せられるような打者に成長する可能性も大いに秘めています。かつてヤクルト・スワローズでチームを牽引し、MLBでコンスタントに良績を残した、青木宣親に匹敵する天性の野球センスがあると信じてやみません。

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written by 空リュウ

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