【小説】東野圭吾「鳥人計画」を読んだ感想・私見

  • LINEで送る

[スポンサーリンク]

東野圭吾-鳥人計画-小説-感想

1989年に刊行された東野圭吾SFミステリ「鳥人計画」。

別の記事で“東野圭吾作品・異彩を放つサスペンス3選”にふれましたが、本作も東野作品の中で異色のミステリであることは間違いありません。特に、核心に迫る後半でSF要素が色濃く描写されています。

早々に実写化されても不思議ではない作品ですが、スキージャンプがマイナー競技ということも影響しているのでしょうか。

倒叙形式で「鳥人計画」の真相に迫る驚愕ミステリ

日本スキージャンプ界のホープ・楡井明が何者かによって毒殺され、捜査が難航するところからストーリーが展開されます。そして早々に犯人を明かすことによって、倒叙形式で主に犯人の視点から徐々に伏線を張っていきます。

東野作品にいくつかみられる倒叙形式の中でも、本作は伏線回収の面白さが味わえる作品です。

後半に入ると徐々に真相に迫っていきますが、ある人物のマッドサイエンティスト的なSF要素が本作をより一層異色のミステリへと誘っていきます。

[スポンサーリンク]

天性の資質で“鳥人”になれるジャンパー

東野圭吾-鳥人計画-小説-感想

“鳥人”の異名で名を馳せたマッチ・ニッカネン。

その名はスキージャンプに詳しくない者でも知っているぐらい有名です。本作では“和製ニッカネン”とよばれた楡井明のジャンプをめぐって、個々の思惑が交錯していきます。

作中の楡井明がそうであるように、異次元のパフォーマンスを発揮するアスリートは、何かに裏打ちされた持論がとくにあるわけではなく、天性の資質で事を成し得ているケースが多いように感じます。

“鳥人”を毒殺した犯人と密告者の思惑

東野圭吾-鳥人計画-小説-感想

卓越した能力を妬んでの犯行なのか──。

スキージャンプ関係者の犯行ではないかという警察の読みは、意外にも捜査に時間を要する先入観となります。難航する捜査は、なかなか犯人の目星がつけられないことを意味しています。

行き詰る捜査の最中、警察に届いた密告状。

誰のどんな思惑がはたらいているのか。その密告状の信憑性は確かなのか。そして、“鳥人”を毒殺した犯人にはどんな思惑があったのか。

あらゆる疑念がうずまく中、明らかになる犯人の視点で進行する倒叙形式の描写は、読み手にいくつかの推察をもたらすのではないでしょうか。

[スポンサーリンク]

“鳥人計画”にまつわる真相とは──

東野圭吾-鳥人計画-小説-感想

近年でも日進月歩の勢いで発展しているスポーツ科学。

東野作品に多く登場する科学的見地が、本作でも“鳥人計画”として進行しています。

マッドサイエンティスト的思考の人物は、狂気の沙汰とも思える本音を吐露しますが、あながち間違いではない着眼点も持ち合わせています。そして、その人物がこの計画に携わることにより、周囲の人間のその後の人生が狂っていく様も、東野作品らしい求心力があります。

犯人の動機、死に至る経緯など、いくらか腑に落ちないところはありますが、スキージャンプの魅力や歴史を知り得ることができ、何よりラストの醍醐味に至るまでの全体の構成が秀逸な作品であることは間違いありません。

written by 空リュウ

[スポンサーリンク]

テキストのコピーはできません。