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ミステリ小説の中でも人気の高い「叙述トリック」作品。
そもそも叙述トリックとは何か──。
ミステリ小説で用いられるトリックの一つで、作中の語り手または地の文によって、読み手の思い込みや先入観を巧みに誘い、ある方向へミスリードさせるテクニックのことをいいます。
いわゆる、アリバイトリックや密室トリックなどの古典トリックとは一線を画し、小説の形式や文体を用いて読み手を欺く手法が多くみられます。代表的なミスリードのテクニックとしては、時系列の入れ替え、作中作、性別・人物の誤認、一人二役(または二人一役)などがあります。
また、フェア・アンフェアが常に隣り合わせの「信頼できない語り手」も叙述トリックでは多く登場します。
ときどき“どんでん返し”を叙述トリックとして紹介している記述をみますが、どんでん返し=叙述トリックというわけではありません。あくまで読み手に先入観を抱かせ、ミスリードを誘うのが叙述トリックです。
叙述トリックが刺さる名作ミステリ7選(+11選)
以下、数ある叙述トリック作品の中でも、インパクトや醍醐味、読後感または余韻を味わえるものを私見で厳選7作品(+11作品)ピックアップしています。評価は個々で異なって当然なので、まずは読んでみることをおすすめします。
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「十角館の殺人」綾辻行人 ★★★★★
1987年刊行。著者デビュー作。
新本格ミステリの先駆けとなった名作。衝撃の叙述トリック作品として、あまりに有名な一冊です。
不朽の名作「そして誰もいなくなった」(アガサ・クリスティー)のオマージュ作品でもあり、関連づけるなら同作も一読することをおすすめします。
“島”の章と“本土”の章で展開されるストーリーが意味するものとは──。
頭をガツンと殴られるような衝撃の一行が待ち受けています。
「異人たちの館」折原一 ★★★★★
1993年刊行。2018年本屋大賞発掘部門の「超発掘本!」に選出。
あとがきで著者自身が語っているように、本作は著者渾身の力作。折原一といえば叙述トリックといわれるほど、この分野の名手とうたわれています。
作中作、独白、年譜、関係者インタビューなどテキストを頻出させ、多重文体で読み手を揺さぶり続けます。
過去実際に起きた事件のアレンジ、“異人”の存在、何者かによるモノローグ(独白)、前のめりになる要素がふんだんに盛り込まれた一冊です。
「殺戮にいたる病」我孫子武丸 ★★★★★
1992年刊行。本作の叙述トリックはミスリード必至の一級品。
巧妙に伏線が張られているものの、一読してそれを読み解くのは至難です。おそらく真相が明かされた瞬間、読み手の思考は停止し、ミスリードを解明するため再読することになるでしょう。
また、本作は、サイコキラーによる猟奇的殺人の描写が、あまりにグロテスクなことでも有名。その是非はさておき、叙述トリック作品としては外せない作品であることは間違いありません。
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「アクロイド殺し」アガサ・クリスティ ★★★★★
1926年に発表された不朽の名作。名探偵ポアロシリーズの3作目。
クリスティー作品の中でも後世に多大な影響を及ぼした作品としてあまりに有名です。
本作の叙述トリックは、称賛と批判を同時に受け、二次的な余波「フェア・アンフェア論争」を巻き起こしたことでも周知されています。
本作については、書評などの予備知識はもたずに一読することをおすすめします。
「慟哭」貫井徳郎 ★★★★☆
1993年刊行。著者デビュー作。
重厚な描写が多いことで知られる貫井作品の中でも、代表作として名高い深みのある一冊。
連続少女誘拐事件を背景に、“彼”の視点で進行する描写が奇異に映り、読み手を引き込んでいきます。
被疑者検挙に尽力する捜査本部の俯瞰と、新興宗教に心の救いを求める“彼”視点の描写はどこで交わるのか。
叙述トリックもさることながら、著者が届けたいメッセージの余韻が残る秀作です。
「ハサミ男」殊能将之 ★★★★☆
1999年刊行。著者デビュー作。同年第13回メフィスト賞を受賞。
インパクトのあるタイトルが目を引きますが、読了後、このタイトルが本作の主旨を端的に示していると感じる作品です。
サイコパスな“わたし”視点の描写に揺さぶられ、伏線に気づきつつも読み手はラストまで翻弄されます。
ハサミ男の犯行を模倣する第三の殺人、その真相を暴くためにシリアルキラーが探偵役をこなすなど、精巧なプロットによって構成されている傑作です。
「迷路館の殺人」綾辻行人 ★★★★☆
1988年刊行。綾辻作品“館”シリーズの3作目。
「十角館の殺人」の流れからか、“クローズドサークル”の舞台で起こる“見立て殺人”が本作のプロットです。
そして新味をブレンドしているのが、叙述トリックに絡んでくる“作中作中作”。
エピローグで語られる伏線回収の件は、著者の矜持を感じるフェア・アンフェアの境界線でもあります。ラストの真相究明に迫る談義によって、読み手はもうひとつの衝撃を受けることになります。
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「仮面山荘殺人事件」東野圭吾
帯のコピー「スカッとだまされてみませんか」がこの作品の謳い文句。東野作品らしく、読みやすく著者の思惑通りに読み進めてしまう一冊です。
「ある閉ざされた雪の山荘で」東野圭吾
特異な舞台設定で起こる連続殺人。劇中の殺人はどこまでが事実なのか、という疑心暗鬼を抱かせる技巧的な作品です。
「霧越邸殺人事件」綾辻行人
クローズドサークルの幻想的な舞台で次々と起きる見立て殺人。綾辻作品ならではの独特の世界観が読み手を引き込みます。
「修羅の終わり」貫井徳郎
連続交番爆破事件を背景に、三者視点の展開がどこで交わってくるのか。とりわけ陰鬱とした公安内部の事象が記憶に残る作品です。
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「夜歩く」横溝正史
某作と同じ手法が用いられている叙述トリック作品。論点はやはり同作と同じ点に尽きますが、これをどう受け取るかは個々の判断に委ねられます。
「蝶々殺人事件」横溝正史
金田一の影に隠れがちな“由利&三津木”シリーズですが、本作はロジカルな本格派。横溝作品特有のおどろおどろしい雰囲気はなく、スマートに読める一冊です。個人的には「本陣殺人事件」よりもこちら。
「マリオネットの罠」赤川次郎
赤川作品らしく、全体的に読みやすい一冊。シリアルキラーの存在が際立ち、卓越したプロットによって構成されています。ラストで本作タイトルの趣旨も示されています。
「倒錯のロンド」折原一
同作家の十八番そのままに、緻密なプロットで構成された叙述トリック作品。書き手が導くミスリードへ預けるほかありません。
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「倒錯の死角 201号室の女」折原一
倒錯シリーズの2作目。常軌を逸した事象の連続に読み手は揺さぶられます。ラストの展開は著者の意向が反映されたものでしょう。
「ロートレック荘事件」筒井康隆
書き手の作為によって特異な印象が残る作品。これが受け入れられるか否かは読み手の感性次第でしょう。作品自体は214頁と短くまとめられています。
「星降り山荘の殺人」倉知淳
作者からの挑戦状ともとれるテキストが頻出。叙述トリックを看破してミスリードを回避できるか、一読の価値がある作品です。
written by 空リュウ
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