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【NPB】クライマックスシリーズは必要か廃止か

NPB-プロ野球-クライマックスシリーズは必要か

ペナントレース2位や3位のチームが1位のチームを倒して日本シリーズへ進出するたびに、にわかに熱を帯び始める“クライマックスシリーズ廃止論”。今回も至るところで侃々諤々の議論がなされていることと想像します。

導入後10年以上が経過し、現行の制度のまま継続して良いのか、または改善すべきか、はたまた廃止か──。今一度ペナントレースとクライマックスシリーズのあり方を見直す必要性があるのは間違いありません。

クライマックスシリーズとペナントレースの相関を見直す必要性

2017年ペナントレースは、セリーグでは1位広島東洋カープが2位阪神タイガースに10ゲーム差をつけ、パリーグでは1位福岡ソフトバンクホークスが2位埼玉西武ライオンズに13.5ゲーム差をつけて優勝しました。

現行の制度では、クライマックスシリーズの前に、セリーグ・パリーグの各優勝チームが決定しています。多くのファンが矛盾を感じているのは、「日本シリーズというNPB最高峰の決戦に、リーグ優勝チームが出られない可能性がある」という点でしょう。

現行のクライマックスシリーズは後づけの制度

そもそもクライマックスシリーズは、ペナントレース優勝チーム決定後の消化試合をなくすために考えられた施策でもあります。早い段階で優勝チームが決まり、残りの試合が消化試合になってしまうと、選手は個人成績に走ってしまい、見る側もつまらないゲームになりがちです。そうなると、ファンも球場から足が遠のき、興行的にもよろしくありません。

これを改善するために2004年にパリーグが先行して導入したのがきっかけ。これが興行面でも成功し、セリーグでも2007年に本格導入して現在の制度に至っています。いろんな意見がありますが、ここまで浸透したクライマックスシリーズをなくすという選択肢は、流れに逆行しているように感じます。

前述しましたが、クライマックスシリーズの存在に疑問を抱く意見の多くが、ペナントレース優勝チームが日本シリーズに出れないという矛盾を指摘したもの。現在のクライマックスシリーズが施行されるに至った理由が後づけのものであるため、そもそものズレがそこにあります。

リーグ優勝チームが日本シリーズに進出できる制度とは

NPB-プロ野球-クライマックスシリーズは必要か

ペナントレースで優勝チームを決定してしまっている以上、現行のクライマックスシリーズの制度では、ペナントレース優勝チームが日本シリーズに進出できない可能性があるという矛盾は消せません。矛盾を解消するには、ペナントレースとクライマックスシリーズの相関を見直さないと成立しないでしょう。

クライマックスシリーズの優勝チームがシーズン優勝チームになる制度に変更するなど、現状の制度を見直さないと今後もこの矛盾は解消されないままです。

クライマックスシリーズとペナントレースの相関はMLBの流れをくんでいることもあり、いま一度、MLBの制度を考察する必要があります。

MLBではポストシーズン(プレーオフ)でリーグ優勝チームを決めるという制度が成立しています。そもそもMLBにはNPBの倍以上のチーム数(30チーム)が存在し、2リーグ各3地区制(5チーム×3地区×2リーグ)で、ポストシーズンへ進出するためにレギュラーシーズンを争います。多くのチームが存在する中、「上位約3割のチーム数でポストシーズンを戦う」という妥当な数字に落ち着いているため、レギュラーシーズンとポストシーズンとの相関も確立されています。

NPB-プロ野球-クライマックスシリーズは必要か

細かくみると、1リーグ15チーム中、ポストシーズンに進出できるのはワイルドカード2チームを含む計5チームです(各地区優勝チームおよび優勝チームを除いた勝率上位2チーム)。その5チームでトーナメント制のポストシーズンを戦ってリーグ優勝チームを決め、リーグ優勝チームがワールドシリーズに進出し、MLBのNo.1を決めます。リーグ優勝チーム同士がワールドシリーズに進出するので、NPBの日本シリーズで起きるような“リーグ3位vsリーグ1位”の対戦はありません。

NPB独自のクライマックスシリーズを

とはいえ、1リーグ15チームあるMLBの制度をそのままNPBに当てはめることはできないでしょう。1リーグ6チームしかないチーム数でMLBの制度を当てはめてしまうと、現行のように半分の3チームでクライマックスシリーズを争うというアイデアになってしまいがちです。

「消化試合をなくし、興行的に盛り上げる」というコンセプトを差し置いて、「そもそも12チームしかないNPBの組織に半分のチームが進出できてしまうクライマックスシリーズは必要なのか」という意見が、クライマックスシリーズ廃止論の中でも多くを占めているのも頷けます。

これらをすべて解決する制度を今すぐ確立することは不可能ですが、クライマックスシリーズを受け入れて制度化するには、少なくともこれまでの概念を刷新しないといけない段階にきているのは間違いありません。

「レギュラーシーズンでリーグの順位を争い、プレーオフで上位チームによるトーナメントによって優勝チームを決める」という制度は、野球以外のスポーツでも広く採用されています。レギュラーシーズンのような長い戦いの中での戦略と、プレーオフのような短期決戦での戦略には当然差異があり、そこにも醍醐味が感じられます。

プレーする側には多くの戦術が求められ、見る側も異なる条件での応援に白熱します。また、特に国際試合では短期決戦での結果が求められるため、国内でも同様の制度を導入して場慣れしておかないと世界レベルから置いていかれます。

NPB-プロ野球-クライマックスシリーズは必要か

NPBの長い歴史の中でつくり上げられた「ペナントレースでリーグ1位になったチームこそ、リーグ優勝チームとしてふさわしい」という概念を覆すには多大な労力が必要であり、また大きな賭けにもなるでしょう。

いろんな意見が錯綜する中、どれがもっとも相応しいかは議論が必要ですが、個人的には、今のところ以下のアイデアがクライマックスシリーズとペナントレースの相関を成り立たせてくれるように感じます。

  • 12球団を1リーグ制にする
  • 1リーグを3ブロック(地区)に分ける(セントラル、パシフィック、新名称など)
  • 1ブロック4チームとする
  • 各ブロック優勝チームおよび(各ブロック優勝チームを除く)勝率上位2チームの計5チームによるプレーオフ(クライマックスシリーズ)を行う
  • プレーオフ(クライマックスシリーズ)は複数試合による先勝制のトーナメント方式で行う
  • (各ブロック優勝チームを除く)勝率上位2チームが対戦し、その勝者がトーナメント・セミファイナル(ファーストステージ)へ進出する(MLBでいうワイルドカード)
  • セミファイナル(ファーストステージ)は(ブロック優勝チーム中)勝率1位と(MLBでいう)ワイルドカードの勝者の対戦、(ブロック優勝チーム中)勝率2位と3位の対戦とする
  • セミファイナル(ファーストステージ)は3勝先勝制、ファイナル(日本シリーズ)は4勝先勝制で行う

written by 空リュウ

【2017NPB】横浜DeNAベイスターズがCS下克上で日本シリーズへ

2017横浜ベイスターズ-クライマックスシリーズ下克上

2017年度NPBセリーグ・クライマックスシリーズは、ファイナルステージで横浜DeNAベイスターズが広島東洋カープを対戦成績4勝1敗で下し、ベイスターズが19年ぶりとなる日本シリーズ進出を決めました。

ペナントレース3位のベイスターズは、ファーストステージでペナントレース2位の阪神タイガースを2勝1敗で下しているため、3位のチームが日本シリーズに進出するのはセリーグでは初となります(パリーグは2010年の千葉ロッテマリーンズ)。

マシンガン打線を彷彿とさせるDeNAベイスターズ打線の下克上劇場

1990年代にその名を轟かせた“マシンガン打線”の勢いが、今回のクライマックスシリーズのベイスターズ打線に垣間見れた気がします。対阪神とのファーストステージ初戦こそ沈黙しましたが、2戦目の逆転勝利を機に打線の勢いは増し、ファイナルステージでも1敗から4連勝するなど一気の爆発力がありました。

悪条件での勝利が下克上の序章に

2017横浜ベイスターズ-クライマックスシリーズ下克上

ファーストステージ初戦を0-2で落としたあとの第2戦は、雨天泥グラウンドでのゲーム。

先に2勝したほうがファーストステージ突破という状況で阪神に先制され、崖っぷちのベイスターズ。しかし、主軸のロペス、宮崎らの犠飛、タイムリーで逆転に成功。さらに、筒香のタイムリー、代打・乙坂の3ランなどの猛攻も加わり、結果13-6の大勝でした。

この勢いのまま第3戦も6-1で阪神を下し、ベイスターズがファーストステージを突破。

今回のクライマックスシリーズで課題にあがったのは日程でしょう。いくら後ろが詰まっているからとはいえ、あの泥グラウンドの悪条件の中ゲームを強硬するのは、プロの興行とはいえないレベルです。のちに、妥当とはいえ、ファイナルステージ初戦で5回降雨コールドゲームの判断をしたのも物議をかもしました。

投打がかみ合うベイスターズ、らしさが出ないカープ

ペナントレース1位のカープはアドバンテージの1勝にくわえ、ファイナルステージ初戦を降雨コールドで勝利。4勝を先勝したほうが日本シリーズ進出という条件で、2勝0敗という圧倒的に有利な立場となりました。

しかし、第2戦はベイスターズ先発の濱口が粘りの投球をみせ、打線も奮起してカープ先発野村を打ち崩し、6-2でベイスターズが勝利。ここからベイスターズの逆襲が始まりました。

さらに、続く第3戦をベイスターズは7人の投手で継投。投手戦を制して1-0で連勝しました。これで対戦成績2勝2敗のタイに。ベイスターズ先発井納が自ら決勝タイムリーを放つなど、流れがベイスターズに傾きつつある雰囲気です。

第3戦のあとは雨が続き、雨天中止で2日流れました。これで流れが変わるケースもありますが、ベイスターズの勢いは止まりません。

2017横浜ベイスターズ-クライマックスシリーズ下克上

第4戦はカープが初回にいきなり丸の2ランなどで3点を先制。しかし、ベイスターズが4回に筒香のソロホームラン、続く5回に桑原、ロペスのタイムリーで逆転に成功。7回からは今季勝ち頭の今永を中継ぎで起用し、7、8回とカープ打線を零封するなど、投打がかみ合いました。

一方のカープは対照的な内容。初戦で5回無失点だった薮田が、この試合4回0/3を投げて4失点で降板。打線もダブルプレーを3つ喫するなど、拙攻が目立ちました。これでベイスターズが日本シリーズ進出に大手。

背水の陣となったカープは、第5戦またもや初回に丸、バティスタのタイムリーで先制します。しかし、ベイスターズはこの試合でも2回から5回まで4イニング連続で得点をあげ、あっさりと逆転に成功。さらにその後も3点をくわえ、一気にカープを突き放します。結局、ベイスターズ打線は計5本のホームランを含む16安打でカープを圧倒し、9-3で第5戦に勝利して、対戦成績4勝2敗で日本シリーズ進出を決めました。

カープはペナントレースで2位阪神に10ゲーム差をつけ、今季ぶっちぎって優勝しましたが、対戦成績をみると、唯一ベイスターズにだけ負け越しています(12勝13敗)。アドバンテージの1勝はありましたが、相性は五分。むしろ、苦手意識があって、短期決戦ではもっとも対戦したくない相手だったのでは。

短期決戦の流れを引き寄せたラミレス監督の名采配

シーズン143試合、期間にして約7ヶ月もの間戦い抜くペナントレースとは異なり、クライマックスシリーズは超短期決戦です。

能力のある選手が調子が上がらないため、我慢して使い続けるということをペナントレースではよく見聞きしますが、わずか3戦、7戦という短期決戦ではそんな悠長なことはしていられません。

昨年日本一になった北海道日本ハムファイターズ・栗山監督の采配は、クライマックスシリーズ、日本シリーズの短期決戦で正に効果的でしたが、同様に今回のクライマックスシリーズで短期決戦としての采配が冴えていたのはベイスターズ・ラミレス監督でした。

2017横浜ベイスターズ-クライマックスシリーズ下克上

打線の入れ替えなどはシーズン中から見られましたが、とりわけ、短期決戦としての投手継投に妙を見ることができました。

そのひとつがファイナルステージ第4戦。1点のリードを守るために計7人の投手で継投し、強力カープ打線を3点に抑えることに成功したゲームです。特に、7回に今永を投入したところにラミレス監督の才能がうかがえます。

対戦成績2勝2敗とし、第4戦は日本シリーズ進出に王手をかける大事な一戦。6回終了時点で4-3とリードし、9回のマウンドを託すクローザー山﨑につなぐまでの7、8回をどう抑えるかという点がポイントでした。ここで左のエース今永を送り込むという采配にラミレス監督のセンスをみます。

2017横浜ベイスターズ-クライマックスシリーズ下克上

ふつうであれば、シーズン中の勝ちパターンを崩したくないというのが監督の心理でしょう。結果的にそれでも抑えることができるのかもしれませんが、シーズン中にはない短期決戦特有の選手起用をすることで、選手にも緊張感を与えられるでしょうし、勝負をかけていることも伝わるはずです。何より相手が面食らい、まともに準備ができないという奇襲効果もあります。この場面は3勝目がかかった大事な一戦の勝負どころであり、0点で抑えるもっとも確率の高い投手をラミレス監督が起用したと判断できます。

同様に、第5戦の先発石田が初回に2失点を与えたところでも早々に継投に入っています。第2戦で先発した濱口を三番手で起用するなど、ここでも大胆なアイデアを実行しています。それぞれの場面で英断したラミレス監督の采配は当然評価されるべきものですが、その起用に応えた選手がそれ以上に素晴らしかったといえます。

「短期決戦では普通の人が考えないようなアイデアが重要」と語っているように、ラミレス監督は相手より先に動くことで相手の勢いをそぎ、自軍が優位になる流れをつくる戦術をとっています。少なからず、この戦い方は他のチームも参考にする風潮が出てくるのではないでしょうか。

written by 空リュウ

【2017WBC】準決勝「日本VSアメリカ」│届かなかった1点

WBC2017-日本VSアメリカ戦

2017年WBC1次ラウンド3戦全勝、続く2次ラウンドも3戦全勝。計6戦全勝で決勝ラウンド進出。

今回の目玉といわれた日本ハム・大谷翔平の離脱もありながら、正直、ここまで投打が躍進し、世界の強豪相手に連勝するとは予想していませんでした。柱となる存在が抜けたからこそ全員でチームを盛り上げ、一人ひとりが個の力を出し切ったといえるのかもしれません。

決勝ラウンドは負ければ敗退のトーナメント戦。一発勝負は時の運もありますが、それを呼び込んで勝ち上がってこその世界一でもあります。

世界一奪還への大一番「アメリカ戦」

アメリカは過去3大会で、ベスト4(第2回)が一度だけという実績。3月開催という時期的なものもあり、WBCそのものを疎んじていた傾向が強く、所属チームの事情もあってメジャーの選手は参加に消極的でした。

WBCへの意識が低いぶん、たいした結果も残していません。メジャーが世界一という観念から、他国の野球のレベルを軽くみているという節も当然あるでしょう。そのアメリカが第4回大会にしてようやく、メンバー全員メジャーリーガーという意気込みをみせてきました。

メジャーのバッターに日本のSUGANOを知らしめたフォーシーム

WBC2017-日本VSアメリカ戦

日本の先発は菅野(巨人)。

キューバ戦では力みがあってコントロールを乱し、甘く入った球を痛打されましたが、平常心で本来の力を出せば、メジャーの一流バッター相手でも試合がつくれることを証明しました。

メジャー級のフォーシームで、アメリカの主軸から空振りをとる圧巻のピッチング。一線級のバッターが、まともに芯でとらえられない様は痛快そのもの。まさに快投でした。

4回表のアメリカの攻撃で、セカンド菊池のエラーをきっかけに1点を奪われましたが、6回を投げて打者22人に対し、被安打3、奪三振6、与四球1、失点1、自責点0という申し分のない内容。先発の責務を果たしました。

試合後、敵将リーランド監督も菅野を“メジャー級”と称し、コントロールの良さを絶賛していました。この日の菅野は特にフォーシームの走りが抜群に良かったと思います。特に、インハイのフォーシームをメジャーのバッターが空振りしているのが印象的でした。

メジャーで即通用するピッチャーと評価されたスプリッターSENGA

WBC2017-日本VSオランダ戦

菅野のあとを受けて、7回からマウンドに上がったのが千賀(ソフトバンク)です。

1次ラウンド、2次ラウンドでの快投は既に世界に知れわたり、“SENGA”の評価はうなぎのぼり。アメリカ戦を終えた時点で、奪三振16は菅野と並んで出場選手中トップの数字です。

7回表のアメリカの攻撃は、5番ホスマーから始まる打順でしたが、いきなりアクセル全開で驚愕の三者三振。オールスターにも出場した3選手でしたが、千賀のピッチングが圧倒しました。落差のある千賀のスプリットは、アメリカ打線に強烈なインパクトを与えたはずです。

8回に連打を浴びて1アウトランナー2、3塁の場面を招いてしまい、サードゴロの間に1失点。2番A・ジョーンズの打球はサード松田の前へ転がるイージーなバウンドでしたが、バックホームを焦った松田が打球をファンブルしてしまった結果です。

千賀は7、8回を投げて打者8人に対し、被安打2、奪三振5、失点1、自責点1という内容でした。特筆すべきは、トップクラスのメジャーリーガーを相手に、アウト6つのうち5つを三振で奪ったこと。三振がとれるピッチャーは高い評価を受けます。この大会でメジャーリーガーSENGAという門戸が開かれたのは間違いありません。

日本打線がとらえられなかったアメリカ投手陣のツーシーム

WBC2017-日本VSアメリカ戦

アメリカに1点先制されてしまいましたが、日本のファンは、過去6戦で見せたような打線の奮起を期待していたと思います。しかし、継投でつなぐアメリカのピッチャーを日本の打線はとらえきれませんでした。6回裏の2番菊池の同点ホームランが唯一とらえることができた一打でしょう。

試合後、5番中田(日本ハム)は、「ボールが予想以上に動いていた」と語っています。「スピードは感じないが、ツーシームに差し込まれる」とも。どのバッターも、NPBでは見ることのないメジャーのツーシームに戸惑っていたという印象です。バットには当たるものの、芯をはずされた勢いのない打球を前に飛ばすのがやっとでした。

象徴的だったのは、8回裏、代打内川(ソフトバンク)のヒットを足がかりに、2アウトランナー1、2塁で4番筒香(DeNA)を迎えた場面です。5番手マランソンから筒香が放った打球は、ホームラン性の角度で上がりましたが、伸びを欠いてライトフライに終わりました。この一打もやはり、差し込まれて芯をはずされていた結果でしょう。

紙一重の内容ではあるものの、勝ち負けは大きな差

WBC2017-日本VSアメリカ戦

1点を追いかける展開に、最後は力尽きた侍ジャパン。

4回、8回、いずれも守りのミスが絡んでの失点でした。日本は投手力を中心に堅実な野球で勝つことを信条にしているだけに、悔やまれる内容です。雨で湿った天然芝という状況で、読めないバウンドになったり、わずかなスリップが発生するなど、不運なことも重なったと思います。

この試合に関しては、メジャーのピッチャーを打ち崩すことができなかったことが敗因です。いくら日本のピッチャーが良いとはいえ、世界の強豪を0点で抑えることは至難の業です。ある程度打線がつながって得点しないことには勝利は見えてきません。

菅野、千賀が強力アメリカ打線を相手に好投し、最少失点で抑えましたが、その中でも何本かはバットの芯でとらえられ、痛烈な打球をはじき返されていました。さすがメジャーリーガーといってしまえばそれまでですが、日本のバッターもメジャーのピッチャーに対応できるスキルを身につけることが不可欠です。次回WBCでは、メジャーのピッチャーのツーシームを、日本の打線が打ち込んで得点するシーンが見られることを期待しています。

  1  2  3  4  5  6  7  8  9 
アメリカ 0  0  0  1  0  0  0  1  0 2 6  0 
日本 0  0  0  0  0  1  0  0 0 1  4  1 

【勝】ダイソン 【負】千賀
【本】[日本]菊池(1号)

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written by 空リュウ

【2017WBC】2次ラウンド「日本VSオランダ」│記憶に残る接戦

WBC2017-日本VSオランダ戦

2017年WBC1次ラウンド・プールB、3戦全勝。

日本は1次ラウンドを3戦3勝とし、見事1位通過を果たしました。

日本 11-6 キューバ
日本 4-1 オーストラリア
日本 7-1 中国

3/12より2次ラウンド(プールE)が始まっています。2次ラウンドの日本の初戦は、スターティングメンバーに現役メジャーリーガー5人を並べ、さらに4番にバレンティン(ヤクルト)を据える豪打オランダ。

延長11回タイブレークまでもつれる大接戦となりましたが、5番中田(日本ハム)の勝ち越し2点タイムリーで8-6とし、オランダに競り勝ちました。

2次ラウンド突破の鍵となる重要な一戦「VSオランダ」

日本と並んで前回大会ベスト4で、今大会屈指の強力打線を誇るオランダは、間違いなく優勝候補の一角です。この一戦は、今大会を勝ち抜いていく上でひとつの指標になります。

日本の先発は、キューバ戦で4回1失点と好投した石川(ロッテ)。

日本は2回表、8番秋山(西武)の犠牲フライで先制しました。しかし、その直後の2回裏に、オランダ6番J.スクープにソロホームランを打たれ、すぐさま1-1の同点とされます。石川はコーナーへ丁寧に投げ分けていただけに、体勢を崩しながらもレフトスタンドに運んだJ.スクープの一打を認めざるを得ません。

打線につながりをみせる両チーム

WBC2017-日本VSオランダ戦

試合が大きく動いたのは3回の攻防でした。

オランダの先発はソフトバンクで活躍しているバンデンハーク。パリーグ奪三振率1位の好投手であり、日本打線を熟知している難敵です。

3回表の日本の攻撃。日本の各バッターは、高い集中力を保ち、狙い球をしぼって挑んでいました。2試合連続本塁打中の5番中田が、値千金の3試合連続となる3ランホームランで勝ち越しに成功。8番秋山にもタイムリーヒットが出て、5-1とリードしました。

この時点で多くの人が、今日の試合は楽勝なのでは、と予想したはずです。

それが楽観的見解だったと知るのは、その裏のオランダの攻撃でした。

1アウト後、9番Ra・オドュベルから4番バレンティンまで一気の猛攻で、あっさり5-5の同点とされてしまいます。3本のヒットと犠牲フライ、2点本塁打で一瞬のうちに追いつかれてしまいました。特に、バレンティンの同点2ランは、オランダチームに勢いをもたらせる一撃でした。

日本の先発石川は3回を投げて、打者15人に対し、被安打5、被本塁打2、与四球1、失点5、自責点5という結果。けっして調子は悪くなかったと思いますが、オランダ打線の豪打が上回ったという印象です。

渾身の投球でオランダ打線に立ち向かう日本投手陣

WBC2017-日本VSオランダ戦

日本は、4回を平野(オリックス)、5、6回を千賀(ソフトバンク)が力投し、オランダ打線を封じました。オランダの上位打線と対峙した千賀は、ヒットを打たれたものの、後続を気迫のピッチングで抑えました。平野、千賀両投手は、ここまでの4試合で安定した投球をみせています。

日本打線も集中力を切らしていませんでした。

5回表の日本の攻撃。先頭打者の坂本(巨人)がヒットで出塁し、パスボールなどで2アウトランナー3塁となります。この場面で、9番小林(巨人)が外角の変化球にくらいついてセンター前タイムリー。これで再び6-5と勝ち越しました。

今回の侍ジャパンの中で、小林の打力はあまり期待されていませんでしたが、いざ始まってみると、ホームランを放つなど、ラッキーボーイ的な存在で打撃開眼しています。

7回以降も日本のバッテリーは、オランダ打線に細心の注意をはらってアウトを重ねていきます。7回を松井(楽天)─秋吉、8回を宮西(日本ハム)─増井(日本ハム)の継投で凌ぎました。ランナーを出すものの、粘りと渾身の投球でオランダの各バッターに対しました。

バックも守備で盛り上げます。特に、セカンド菊池の広い守備範囲は日本の要。7回1アウトランナー1塁の場面で、3番ボガーツが放った二遊間への痛烈な打球をダイビングキャッチし、アウトをもぎ取りました。1次ラウンドのキューバ戦でも菊池の好守で救われたシーンがありましたが、今後の試合でも菊池の守備に助けられるシーンは必ず出てくるでしょう。

定まらない侍ジャパンのクローザー

WBC2017-日本VSオランダ戦

6-5と1点リードして9回裏オランダの攻撃を迎えた日本。

マウンドに上がるのは牧田か──、と多くの人が予想したはずです。牧田は、1次ラウンドの3試合中2試合でクローザーを努めています(もう1試合は秋吉)。

ところが、この大事な一戦の9回裏、クローザーとしてマウンドに上がったのは則本でした。則本も任されたポジションをまっとうしようと全力を尽くしましたが、1つの四球に2本のヒットを浴び、6-6の同点に追いつかれてしまいます。

試合後の小久保監督は則本のクローザー起用について、「今日は則本で行こうと。理由はないです」と語っています。どうにも腑に落ちない選手起用であり、ベンチワークに不安が残ります。

延長の末、タイブレークで決着

WBC2017-日本VSオランダ戦

10回を両チーム無得点で終え、11回からはルールによってタイブレーク方式(ノーアウトランナー1、2塁)で試合が始まります。

10回表、途中出場で4番に入っている鈴木(広島)が送りバントを決め、5番中田に1アウト2、3塁のチャンスをつくりました。この場面で5番中田は期待にこたえます。迷いのないフルスイングで、レフト前2点タイムリーヒットを放ち、8-6と勝ち越しに成功。

ここまでの中田は、3本塁打8打点と、WBC打者成績ランキングでも上位の結果を残しています(3/13時点でいずれも1位)。NPBのシーズンでは、チャンスに凡退というシーンも時おり見られますが、国際試合などの大舞台では本来の力を如何なく発揮するタイプ。4番筒香も結果を出していますが、勝利打点となる打点をあげているのは、ここまでは中田という風向きです。

結果的にクローザーは牧田

延長に入った10回裏からは牧田が登板し、10回、11回と一人のランナーも出さずオランダ打線を0点に抑えました。

球速はけっして速くはないものの、緩急のあるピッチングと独特の浮き上がって見える軌道に、オランダ打線は明らかに戸惑っていました。インコースのストレートにも詰まり、打たれる気配は皆無。結果的にクローザーは牧田という流れでした。

こうなった以上、チームとして牧田をクローザーとして固定するなど、何らかの方向性を定めてほしいものです。個人的には、牧田はセットアッパーがベターだとみていますが。

決勝ラウンドまで今の勢いで、アクシンデントなく突き進んでくれることを祈っています。

  1  2  3  4  5  6  7  8  9 1011
日本 0  1  4  0  1  0  0  0  0  0  2 8150
オランダ 0  1  4  0  0  0  0  0  1  0  0 6120

【勝】牧田 【負】ストフベルゲン
【本】[日本]中田(3号) [オランダ]J.スクープ(1号)、バレンティン(1号)

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written by 空リュウ

【2017WBC】1次ラウンド「日本VSキューバ」│混迷の継投

WBC2017-日本VSキューバ戦

2017年3月6日、第4回ワールドベースボールクラシック(WBC)が開幕しました。

日本の初戦は、3月7日のキューバ戦。

日本の打線がつながり、大量11得点をあげ、11-6で何とか逃げ切りました。5点の点差はありますが、快勝というよりは辛勝という印象の内容でした。

WBCの緊張感が漂う初戦の攻防「VSキューバ」

日本の先発は安定感抜群の石川(ロッテ)。

2016年パリーグ最優秀防御率(2.16)、与四球率パリーグ1位(1.55/全体1位は菅野の1.47)、1イニング当たりの球数(15.2球)がパリーグ2位(1位は有原の15.19球)など、精度が極めて高いことを示す数値を数多くもっています。

今回のWBCでは、石川と菅野(巨人)が投手陣の柱です。

ピンチのあとのチャンス

WBC2017-日本VSキューバ戦

1回表、後攻の日本は、内野安打とエラーでいきなりのピンチでしたが、セカンド菊池(広島)の好守などもあり、初回を0点で切り抜けました。キューバとしては先制して優位に進めたかったはずですが、失点せずに凌ぎきったことが日本にとっては大きかったと思います。

そして“ピンチのあとにチャンスあり”の格言そのままに、その裏の攻撃で、3番青木(アストロズ)のレフトフェンス直撃2ベース、4番筒香(DeNA)のタイムリーで日本が先制。キューバの先発エンテンザの立ち上がりにつけ込むことができました。

東京ドームの打球はよく飛ぶとはいえ、メジャーリーガー青木の打球は思ったより飛距離が出たように感じます。青木の野球センスは群を抜いているということは誰もが認めるところですが、このシーンでもさすがの一打でした。

中盤の大量得点でイニシアティブを

WBC2017-日本VSキューバ戦

3回表に犠牲フライで同点に追いつかれましたが、4回裏1番山田(ヤクルト)のあわやホームランというタイムリー2ベースで勝ち越しに成功。

先発石川も140キロ台後半のストレートに、縦に割れるカーブとシンカーをうまくおりまぜ、崩れることなく4回を1失点で抑えました。石川は投球のテンポも良く、コントロールの精度もかなり高いため、見ている側にも安心感があります。

この試合、ゲームが大きく動いたのは5回裏の日本の攻撃でした。

1アウト後、四球で出塁した中田(日本ハム)がバッテリーの隙をついて二盗を決めると、6番坂本(巨人)のタイムリー2ベース、8番松田(ソフトバンク)の3ランホームランなどで一挙5得点をあげる猛攻。日本はこのビッグイニングによって、初戦のイニシアティブを握ることができました。

とりわけ、この日の8番松田の勢いは凄まじく、5打数4安打4打点の活躍。乗らせるとこわいバッターであることを改めて痛感しました。味方にいればこの上なく心強い選手です。

今後に不安の残る継投策

WBC2017-日本VSキューバ戦

石川のあとを受けたのは楽天のエース則本。5回、6回を一人のランナーも出すことなく抑えましたが、7回に先頭打者のデスパイネ(ソフトバンク)にソロホームランを打たれてから崩れました。

7回頭から継投するという選択肢もあったと思いますが、ベンチの判断は“則本でいけるところまでいく”だったようです。

継投か否かの判断はさておき、則本の交代の判断がいまひとつ。4番デスパイネに打たれた一発は仕方ないとして、続く5番、6番に連打を浴びたところで交代だったように思います。2点タイムリーも打たれ、冷静さを欠いて投げ続ける則本が痛々しく映りました。点差があったからそのまま投げさせたのだろうと思いますが、ベンチワークに機先を制する決断力が欠けているように感じます。

則本のあと3番手でマウンドに上がったのは岡田(中日)。ワンポイントでしたが、無難に後続を封じ、7回のキューバの攻撃を3点で抑えました(7回表終了時点で7-4)。岡田のマウンドさばきは良かったと思います。

さらに、続く8回も不可解な継投がみられました。7回裏に筒香の2ランホームランが出たことで9-4となり、点差が広がったこともベンチの判断に影響を及ぼしているかもしれません。

8回からマウンドに上がったのは平野(オリックス)。1アウトを取ったあと、四球とヒットで一、二塁とされ、続くバッターを内野ゴロに抑えて2アウト2、3塁。このタイミングで継投でした。平野のあとを受けたのは、WBC開幕前、小久保監督がクローザー候補一番手と公言していた秋吉(ヤクルト)。

WBC2017-日本VSキューバ戦

ここでクローザーを出すのであれば、最終回も続投させるつもりなんだろう、とふつうは推測します。そもそも、クローザーは最終回の頭からマウンドに上がるのが一般的な起用法のため、8回2アウトからの起用にまずは疑問符がつきます。この日のテレビ中継の解説陣も一様に首をかしげている様子。準備ができていたのか不明ですが、秋吉はタイムリーを打たれ、日本は失点を重ねてしまいました(8回表終了時点で9-6)。

多くの人が、9回も秋吉なのだろう、と予想していたと思いますが、最終回のマウンドに上がったのは牧田(西武)でした。クローザーを任される身からすると、大会前から前もって心の準備をしたいはずですが、首脳陣から牧田にどのタイミングで意向が告げられていたのかは不明です。

このケースでの継投としては、秋吉から牧田よりも、牧田から秋吉のほうが適任だったのではと思います。ロングリリーフのできる牧田を先に使うことで、調子の如何で9回も続投させるという選択もとれます。

試合後の小久保監督は、秋吉のあと牧田を起用したことについて「今日に限っては予定通りです」と語っています。短期決戦において、その時どきの選手の調子をみて起用法を変えていくというのは重要だと思いますが、臨機応変に対応しているというよりは、何となく場当たり的に試しているような印象を受けてしまいます。

権藤ピッチングコーチの意向もあるはずで、監督一人だけの判断ではないと思いますが、継投の不安は拭えきれません。ベンチの判断がブレると、選手のモチベーションにも影響するため、意思統一をはかってチームとしての方向性を明確にしてくれることを願います。

  1  2  3  4  5  6  7  8  9 
キューバ 0  0  1  0  0  0  3  2  0 6113
日本 1  0  0  1  5  0  2  2 ×11141

【勝】石川 【負】イエラ
【本】[日本]松田(1号)、筒香(1号) [キューバ]デスパイネ(1号)

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written by 空リュウ

【NPB2016日本一】北海道日本ハムファイターズ3度目の王座

2016日本シリーズ-北海道日本ハムファイターズ優勝

3勝2敗と星1つをリードし、日本一に王手して迎えた日本シリーズ第6戦。

ファイターズが大量10得点を挙げて広島東洋カープを下し、見事10年ぶり3度目の日本一の座に輝きました。

第2戦終了時点では、第1戦、第2戦とホームで2連勝を挙げたカープが、日本一になる確率が高いといわれていました。しかし、ファイターズはアウェイで2連敗したものの、ホームに戻って3連勝。その後再びアウェイに移動して、今度は勝ちきり、4勝2敗で日本一の栄冠を手にしています。あくまで単なる確率の話ですが、野球に限らず、過去のデータでは計れないものも多く存在するということの証です。

シリーズの潮目が変わった第3戦

第1戦、第2戦とファイターズは自分たちの野球がほとんど何もできず。安打や四球で出塁はするものの、打線が繋がらずちぐはぐさが目立ちました。逆に、カープは足を絡め、適時打に本塁打と、持ち味が発揮できた結果の連勝。初戦の先発ジョンソンも粘り強く要所を凌ぎました。カープ打線はシーズン中と同様の繋がりを見せ、一気にたたみ掛ける強さを発揮しました。

結果に充足感のあるカープと、何もできずストレスフルなファイターズ。第3戦を前にして、メンタル面でもかなりの差があったはずです。それほど勢いはカープ有利だったといえます。1、2戦をホームで連勝したカープは、勢いに乗って一気に4連勝で決めたいのが心情だったでしょう。一方、ファイターズは第3戦を札幌に移し、DHで大谷を3番に据えてムードを変えたいところ。

第3戦の先発は、カープが大黒柱黒田、ファイターズが今期チーム最多勝の有原。この日の黒田は立ち上がりは今ひとつでしたが、立て直してからの2回以降のピッチングが素晴らしく、ファイターズ打線に付け入る隙を与えませんでした。特に両サイドのコーナーに投げ分けるツーシームとカットボールが抜群。明らかに、この投球術にファイターズ打線はお手上げムードでした。

しかし、この渾身の投球が負荷になったのか、足にハリが出たとの理由で黒田は6回途中で降板。ここから流れが少しずつ変わっていきました。鉄板の継投で逃げ切りを計ったカープでしたが、8回二死二塁で、三番大谷を敬遠する策を選択。二死一、二塁の状況をつくり、四番中田との勝負に出ました。この選択がシリーズの潮目を変えたポイントだったように思います。

曖昧なベンチワークに起因する拙守、期待に応えた四番

2016-日本シリーズ-北海道日本ハムファイターズ

中田の放った打球はドライブのかかったレフト前への当たり。守備位置が深すぎたのか、判断に迷って飛び込んだ松山の守備力に問題があったのか。おそらくどちらもでしょうが、前者の場合、突っ込まずにワンバウンドでキャッチしていれば大谷の生還はなかったはずです。後者の懸念があったのであれば、守備固めを行うべきシーンでした。

一方、目の前で大谷を敬遠された四番中田は、期するものがあったでしょう。ネクストバッターズサークルで自ら視界を遮るかのように俯き、自分の打席に集中しようとする姿が印象的でした。決して会心の一打ではありませんでしたが、結果を出したことが評価に値します。シーズン中の打率は決して高くないですが(2016年.250)、打点王を2回(2014、2016)獲得しているだけあって、勝負どころの打席では結果を残しています。これが好転の起爆になったのか、第4戦では本シリーズ初の本塁打を放っています。

2-2の同点で延長となった10回裏も同じような場面。ファイターズは二死一塁から西川が二盗を決め、二死二塁の状況で打者大谷。ここでもカープの外野は深めの守備位置でした。二塁走者は俊足の西川。二死という状況からも西川は思い切ってスタートを切れます。

この条件だけでも前進守備が前提になるはずです。深めに守ると、仮にシングルヒットでも楽に生還できてサヨナラの場面。さすがにベンチもそういう想定はあったはずですが、カープの意図が計れませんでした。結果、大谷が低めのボールをうまくはじき返し、打球は一二塁間をゴロで抜けました。案の定、西川は悠々サヨナラのホームイン。外野の守備位置を確認した二塁走者の西川は、シングルヒットで楽に帰れる、とほくそ笑んだのではないでしょうか。

シリーズの流れをたぐり寄せた第5戦

続く第4戦を中田とレアードのホームランでファイターズが勝利し、2連敗のあとの2連勝で、2勝2敗のタイに戻しました。ホームの利があったとはいえ、明らかに流れはファイターズへ傾きつつあります。

第5戦の先発は、カープが中4日でジョンソン、ファイターズがシリーズ初登板の2年目加藤。どちらも負けられない戦いであることに変わりありませんが、中4日のジョンソン登板は3連敗阻止の表れでしょう。

ベストコンディションではなかったはずですが、ジョンソンのピッチングはやはり一流でした。6回を投げて4安打無失点。安定感はカープ投手陣の中でも群を抜いています。

主導権を握らせない巧みなベンチワーク

2016-日本シリーズ-北海道日本ハムファイターズ

試合が動いたのは7回。カープはこの回からジャクソンに代わり今村がマウンドに上がっています。シリーズ序盤は結果が出ていませんでしたが、徐々にフィットし始めた先頭打者の田中賢介が四球で出塁。犠打と安打で一死一、三塁としたあと、一番岡を迎えました。岡が放った打球はセンターへの浅いフライ。三塁走者は俊足の田中賢介。白井三塁コーチの判断はGoでした。クロスプレーになるかと思われましたが、絶好のスタートを切った田中賢介の足が勝りました。7回裏、ファイターズは1-1の同点に。

8回はカープがジャクソン、ファイターズが谷元に継投し、両投手ともに相手打線を零封。次いで、9回のマウンドに上がったのはカープが中崎、ファイターズがバースです。バースは9回表のカープの攻撃を難なく抑えました。シリーズを通していえたことですが、とりわけバースのピッチングはどんな場面でも抜群の安定感を見せました。

本シリーズの何かをつかんだ9回裏

2016-日本シリーズ-北海道日本ハムファイターズ

ここまで本シリーズの西川は決して好調とはいえない成績(20打数2安打、打率.100)。しかし、この場面での西川に大いに期待していました。どんなスポーツでも“もっている選手”という稀有な存在が必ずいます。ファイターズでいうところのそれが、中田であり大谷であり西川。この大きなポテンシャルを秘めた稀有な存在は、何かやってくれるんじゃないか、という期待をもたせてくれます。その感覚は大きな場面になればなるほど膨らみます。このシーンもまさにそうでした。西川に対する期待値は、ファイターズファンなら同じような感覚を抱く人は多いはず。

ドラマが起きたのは初球の変化球を見送ったあとの2球目でした。狙いすましたかのような西川の鋭いスイングは、中崎の渾身のストレートをバットの芯でとらえました。打球は強く弾かれ、ファンが待つ右中間スタンドへ一直線に飛び込みました。5-1、劇的なサヨナラ満塁ホームラン。日本シリーズでのサヨナラ満塁ホームランは、史上2人目の快挙です。

西川は試合後のインタビューで、「目の前で岡さんが死球を受けたことで闘志がみなぎった」という内容のコメントを残しています。天性の資質ももちろんですが、気持ちが乗るとさらに大きな力を発揮するタイプです。

この試合に勝利したことで、ファイターズは3勝2敗と星一つリードしました。続く第6戦を圧勝して4連勝で日本一の座に就いたことは前述のとおりです。選手の個の能力があるのはもちろんですが、このシリーズはベンチワークの勝利といっても過言ではありません。チャンピオンになったことで、来年は他チームからのマークも厳しくなります。連覇は容易ではありませんが、若い選手が主のチームでもあり、可能性は未知数です。歯車が狂ったときに修正できるかが鍵ですが、逆に、勢いに乗ったときは想像以上の躍進も十分にあるはずです。

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written by 空リュウ

【2016パ制覇】北海道日本ハムファイターズ11.5差からの逆転劇

2016日本ハムファイターズ-パリーグ制覇

2016北海道日本ハムファイターズ-パリーグ制覇

北海道日本ハムファイターズ、2016年パシフィック・リーグ制覇。

最大11.5のゲーム差をひっくり返し、記録はもちろんのこと記憶にも残るシーズンとなりました。“シーズン最速でマジック点灯か”ともいわれていたソフトバンクに追いついたのは驚愕の一言。

近年のファイターズはパリーグ上位争いの常連チームになっています。ここ数年の成績だけを見れば、“投手力があり、若い選手が主体でチームとしてまとまっている”というイメージをもつ程度かもしれません。

しかし、Bクラス低迷時期から地道にチーム力を上げてきた礎があっての今があります。

ビッグバン打線といわれ注目された時代があり、北海道に移転し地域に根ざした球団経営の成功、BOSとよばれる統計的情報システムを先行導入、また、積極的なトレードの実施。ドラフトで獲得した資質のある選手を育て、日本野球に順応できる外国人選手も数多く契約しました。積み重ねた実績が実って、現在のチームが形成されています。

奇跡を起こしたいくつかの軌跡

2016年の大逆転優勝の要因は、個々の成長に加え、不測の事態における英断が奏功したといえるでしょう。シーズン中のアクシデントはつきものですが、一見マイナスとも思えることも結果的にプラスに転換しました。首脳陣が下した判断に選手が見事応え、それらが好結果につながりました。

超一流の二刀流に

北海道日本ハムファイターズ-大谷翔平-11

2014年
234打席│212打数│58安打│10本塁打│31打点│21四死球│打率.273│長打率.505│出塁率.338

2016年
382打席│323打数│104安打│22本塁打│67打点│54四死球│打率.322│長打率.588│出塁率.416

単純計算で、打撃機会が約1.5倍増えたことに対し、安打数、本塁打数、打点、四死球すべてがほぼ倍増しています。中でも長打率.588、出塁率.416は驚異的。長打率.588はスラッガーと呼ばれる数字に匹敵します。長打とは二塁打以上の安打(本塁打含む)のことを指しますが、大谷の場合、パンチ力もさることながら走力も兼ね備えていることが長打率アップにつながっています。単打を二塁打にできる足は大きな武器です。

2012年までファイターズに在籍し、身体能力が高く球界屈指の打者として知られている糸井の2016年成績(オリックス在籍)と比較しても何ら遜色がありません。

616打席│532打数│163安打│17本塁打│70打点│82四死球│打率.306│長打率.451│出塁率.398

しかも、ヒットを放つタイミングも効果的なシーンが多く、逆転、勝ち越しなど、ここ一番で点が欲しいときに打っています。進塁したベース上で自軍のベンチに向かってガッツポーズしているシーンを何度も見ました。

また、特筆すべきは天性の資質。193cmの長身で手足が長いですが、内角のボールに対しても肘をたたんで巧く打ちます。身体の使い方がとてもしなやか。おそらく、野球以外のスポーツをしても多くの競技で大成していたでしょう。マンガの世界から飛び出してきたかのようなスーパースターが、ファイターズに入団してくるとは、ファンも想像すらしていなかったことでしょう。

守護神から先発ローテーションの一角へ

北海道日本ハムファイターズ-増井浩俊-7

ファイターズのリリーフ陣は抜群の安定感がありました。残した数字もリーグ屈指。特に2012年の増井は、登板数73、45ホールドを記録し、文字どおり大車輪の活躍をしました。シーズン終了後には、指揮官栗山監督も「増井には負担をかけてしまった」と回顧しています。

2016年開幕当初は順調なすべり出しに見えましたが、夏を前にして防御率6.30と落ち込み、それまでの安定感が影を潜めました。復調の気配も見えず、ついには一軍登録抹消。

本来の調子を取り戻せない守護神に、首脳陣が下した判断は先発転向という賭けでした。

この配置転換もまた奏功しました。2010年の入団初年度以来となる先発でしたが、先発転向後は6勝1敗、防御率1.10と抜群の成績を残しました。増井の先発転向が逆転優勝の要因の一つであることは明らかです。

30試合│10勝│3敗│10セーブ│1ホールド│完投2│完封勝1│勝率.769│投球回81.0│奪三振71│防御率2.44

勝率.769はチームへの高い貢献度を示し、防御率2.44はクオリティ・スタートの数値にも充当できます。さらに、9月には自身初の月間MVPも獲得し、ファンとしても忘れられないシーズンになりました。

また、増井の代役としてクローザーを務めたマーティンも、最終的に防御率1.07、2勝21セーブ19ホールドという文句なしの成績を収めました。この人選がハマったことも増井の先発転向に大きく影響しています。

覚醒したリードオフマン

北海道日本ハムファイターズ-西川遥輝-7

西川が一軍に定着し始めた頃、“このポテンシャルのある選手、何かもったいないな”とよく感じたものです。秘めた能力はかなり高いものの、荒削りで本来の力がなかなか発揮できず、期待がふくらむばかりで歯がゆく感じていました。

個人的には、西川のスイングは綺麗な“扇”を描いているように感じます。ダウンスイングのバットの軌道がそう感じさせるのでしょう。

2015年
521打席│442打数│147安打│5本塁打│35打点│盗塁30│64四死球│三振98│打率.276│長打率.391│出塁率.368

2016年
593打席│493打数│155安打│5本塁打│43打点│盗塁41│76四死球│三振113│打率.314│長打率.398│出塁率.405

リードオフマンとしてフォーカスするのは出塁率の大幅な上昇。安打数、四死球の増加がそのまま反映されています。走力がある上にパンチ力も兼ね備えていることから長打率は高いバッターです。三振がやや多い傾向にありますが、この数字を減らし、より球を見極めて四球を増やせば、さらに出塁率はアップするはずです。

安打数に影響を及ぼす打球の方向については、レフト方向への意識が強くなっていることが伺えます。しかし、依然として“センターからライトへ強い打球を打てるバッター”という印象です。多くの左打者のリーディングヒッターがそうであるように、レフト方向にヒット性の強い打球が飛ぶようになれば首位打者も視野に入ってくるはずです。

常勝ファイターズを確立するには、このセンス溢れるリードオフマンのさらなる飛躍が鍵になる、と大きく期待しています。現状、チーム事情から一番を担っていますが、将来的には、三番を任せられるような打者に成長する可能性も大いに秘めています。かつてヤクルト・スワローズでチームを牽引し、MLBでコンスタントに良績を残した、青木宣親に匹敵する天性の野球センスがあると信じてやみません。

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written by 空リュウ

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