【小説】マイクル・クライトン「ジュラシックパーク」を読んだ感想・私見(考察)

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ジュラシックパーク-マイクルクライトン

1990年に刊行されたマイクル・クライトン「ジュラシックパーク(上・下)」。

“ジュラシックパーク”といえば、真っ先に全世界で大ヒットしたスピルバーグ作品の同名映画を想起するはずです。マイクル・クライトン作品の原作を思い浮かべる人は少数派でしょう。

映画版ジュラシックパークはCGのクオリティも高く、恐竜マニアの期待にも応えた名作ですが、原作を一読すればジュラシックパークそのものの評価はさらに高まるはずです。本作に限らず、どの作品にも共通することですが、厳密には映画版と原作は別物。個人的には映画を観たあと原作を読んだので、原作の価値が映画を上回っています。

原作には細かい描写や骨子となる主張があり、単なるパニック・サスペンスではないことが窺い知れます。

マイクル・クライトンの作品はバイオテクノロジーや医科学的な要素をとり入れたものが多く、そこにスリラー感が加わることで読み手を飽きさせません。間違いなく稀代のストーリーテラーの一人です。

以下は本作を考察するうえでネタバレを含む表現になっています。

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色褪せない傑作SF「ジュラシックパーク」

全世界でヒットした映画版ジュラシックパークと比べると、知名度という点では原作は映画版ほど認知されていないと推測します。ただ、前述のとおり、映画と原作は似て非なるものであるため、ここでは映画版と比較することは避け、原作についてのみ考察します。

本作が1990年に発表された作品であることを考えると、時代を経てもその内容は色褪せることなく、後世に継がれる名作であることが計り知れます。

投機的な思惑から形成された一大ビジネス

ジュラシックパーク-マイクルクライトン

ある意味この物語の根源ともいえる存在が、インジェン社の創始者であり、ジュラシックパークの創設者である、拝金主義者のハモンドです。この人物なくしてこの物語は成立しません。

根本的な思想に賛同できるかどうかは別として、“現世に恐竜を再現して世界中から金を集める”という着想は、ビジネスの才覚に長けていると言わざるを得ません。

その手法は、琥珀内部の蚊の血液から恐竜のDNAを採取して復元しようとするもの。バイオの世界をちらつかせているあたりにリアリティを感じさせます。

また、この物語は続編小説「ロストワールド(上・下)」にもつながりますが、ジュラシックパークの前編(上巻)で、ライバル社バイオシンのドジスンも早々に登場しています。ドジスンはハモンド以上にヒール感のある存在に仕立て上げられている人物。ロストワールドでは、このドジスンがある手法で恐竜(源)の略奪を試みますが、その発想が突拍子もなくある意味滑稽に映り、スリルもあっておもしろく描かれています。

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洗練されたストーリーテリングと多彩な登場人物

ジュラシックパーク-マイクルクライトン

コスタリカに浮かぶ絶海の孤島・イスラヌブラルで密かにジュラシックパーク創設に着手していた──、という着想に、おそらく読み手の誰もが高揚感を抱くはずです。

そしてパーク全体を運営管理しているのは当該施設自慢のネットワークシステム。さらに、恐竜のDNAを採取し、スーパーコンピュータによってクローンを生成する研究システムの設置。ここにITとバイオテクノロジーを導入しているのはマイクル・クライトンならではといえます。

一方で、ジュラシックパークそのもに警鐘を鳴らしているのが数学者マルカム。この人物は登場して早々にジュラシックパーク破綻について言及し、ハモンドとの対立姿勢を見せています。マルカムを登場させることで、ジュラシックパークが危ういものであることを読み手に悟らせることに成功しています。

物語の進行役という立ち位置では、ハモンドの孫・ティム&レックス兄妹(兄ティム/妹レックス)、古生物学者グラントは欠かせないキャストとして重要な役割を担っています。

妹レックスが破天荒な挙動を繰り返し、兄ティムが少年とは思えないような知識と行動力を発揮して勇敢なグラントと共にピンチを突破していく──。ドジスンの取引に応じたネドリーの仕業でツアーが崩壊し、グラントがティムとレックスを伴って帰還する様は、まさにパニック・アドベンチャーとして描かれています。

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生命の倫理に対する畏敬とは──

ジュラシックパーク-マイクルクライトン

本作の“主演”ともいえる恐竜はティラノサウルスであり、ヴェロキラプトルです。

個人的には、ネドリーを殺害したディロフォサウルスが不気味な存在として刻まれましたが、大味な演出はティラノサウルスに任せ、人間を窮地に追いやる立ち位置は知能の高いヴェロキラプトルがその役割を担っています。

本作の恐竜たちは人間のエゴで蘇生された産物であり、平たくいうと、“金儲けのために太古の生物を現代に蘇らせるという、生命の倫理に反する禁断のビジネスに手を染めた”ということに帰結します。

マルカムが発する「カオス理論」にもとづいたセリフは、終始哲学的な文言に徹しますが、この人物の思想を描写することでテクノロジー依存への警鐘、生命の倫理への畏怖を掲示しているといえます。

読み進めているうちに、「おそらく著者の意向をマルカムに代弁させているのだろう」ということは何となく察しがつきます。

ジュラシックパークが単なるパニック・サスペンスではないことの一つに、このマルカムの主張があることは言うまでもありません。特に、後編(下巻)で瀕死の重傷を負った状態で語る生命の倫理観は、本作の根底にある主張をあらわしていると推測できます。

written by 空リュウ

ジュラシック・パーク〈上〉 (ハヤカワ文庫NV) マイクル クライトン
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ジュラシック・パーク〈下〉 (ハヤカワ文庫NV) マイクル クライトン
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